中国は先物市場の成功モデルを参考にすべきである

China Should Follow The Futures Markets Blueprint

Leo Melamed 2015年12月10日

一部抜粋
• 中国は多くの一次産品を輸入する世界最大の輸入国である。そのため、中国の先物市場は国際的な価格発見において、より大きな役割を担うべきである。
• 市場の国際化には、適切な改革とテクノロジーが必要になる。


過去100年間のコンピューター技術の進歩によって、人類の関心は極大から極小へと移った。この事実は、デリバティブの発展とも大いに関係がある。

20世紀の初めには、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論により、自然科学において宇宙の研究が進んだ。これは極大に関する研究だ。その後、量子物理学の発展とともに、極小に関する研究が進んだ。このプロセスによって、パソコンの生産に欠かせないトランジスタや、私たちが日々の生活で目にする様々なテクノロジーが文明に出現した。

同じように、生物科学の分野では、研究の主な対象が人の細胞からDNAへと移った。つまり、ここでもマクロからミクロへの変化が起きている。これにより、人類は遺伝子疾患や免疫システムなどを理解し、多くの病気の治療法や薬の発見へとつながった。

そして、同様の変化が金融工学の分野でも起きた。コンピューター技術が様々な投資戦略に適用され、大から小へと金融がシフトしたことは、他の分野で起こった変化と驚くほど似ている。コンピューターサイエンスの手にかかれば、どんなに複雑なリスク管理の構造であっても、小さな構成要素に分解することができる。こうして、デリバティブが誕生した。デリバティブは、金融分野における素粒子物理学、または分子生物学のようなものだ。

テクノロジーによって、金融工学におけるリスクの基本的な構成要素が解明された。金融工学の技術者は、リスクとリワードのパッケージを分解し、再構築、再分配することで、よりニーズに沿ったリスク・リワードを投資家に提供できるようになった。

こうした利点により、金融先物商品が大きな成功を収めたのは当然の結果といえよう。1972年に国際通貨市場(IMM)が開設されて以来、リスク管理に用いる金融商品の進化は劇的なものであった。簡潔に言えば、リスクを避けたいと思う人から、リスクを引き受けても良いと思う人へと、先物市場が効率的に金融リスクを配置することができた。

シカゴの成功モデル

当初は、先物市場を否定的に捉える人たちもいた。単なる賭博場に過ぎないというのが批判の根拠である。しかし、膨大な量の学術研究と政府機関の分析によって、常に批判とは正反対の評価が下されてきた。それは、先物がビジネス上の複雑なリスク管理のために不可欠で、資本市場の発展に欠かせないという評価である。過去40年間に渡って、金融の先物は世界中に浸透していった。多くの国がその仕組みを採用し、シカゴの成功モデルを取り入れた。今日では、米国に加えて、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、日本、韓国、メキシコ、シンガポール、英国、そして中国に、先進的な金融先物市場が存在する。そして、そのほとんどで株価指数の先物が取引されている。

この事実は、中国が先進的な資本市場の競争を勝ち抜き、真の大国へと発展する上で非常に重要である。1997年にノーベル経済学賞を受賞し、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)で金融学の教授を務めるロバート・C・マートン氏は次のように述べている。

「昨今のデリバティブ取引の急増は、取引コストの大幅な削減に貢献している。ある組織が金融上の戦略を実現するためにデリバティブを用いると、原資産の現物市場で証券を取引する場合に比べて、コストを10分の一から20分の一に削減できる。このようなコスト削減を考慮すると、それが存在しない社会にはもう戻ることができない。デリバティブはすでに、世界の主要な金融システムの一部として定着している」

デリバティブ商品は、世界で最も規模が大きく、最も洗練された金融機関によって取引されている。国内外の国際銀行をはじめ、政府系や民間系の年金ファンド、投資会社、投資信託会社、ヘッジファンド、エネルギー供給会社、アセット・ライアビリティ・マネージャー、住宅ローン会社、そして保険会社がその一例だ。デリバティブを利用する会社の約83%が、外国為替の変動リスクを抑えることを目的としている。他には、金利の変動に対するヘッジを行うために取引する会社が76%、商品価格の変動リスクを抑えるために取引する会社が56%、株式市場の先物を取引する会社が34%となっている。中国では、証券監督管理委員会(CSRC)の設立を通じて、上海先物取引所(SHFE)、大連商品交易所(DCE)および鄭州商品交易所(ZCE)から成る先物市場が21世紀初頭までに整備された。各取引所では、管理委の規制に沿って改革が行われ、それぞれ異なる商品が取引されるようになった。しかし、中国が金融市場に進出したのは、2006年になってからだった。その年、中国金融先物取引所(CFFEX)が誕生し、上海市場の主要な株価指数であるCSI 300指数が取引されるようになった。CFFEX は初日から多くの取引高を記録し、たちまち成功を収めた。

世界の投資家へ門戸を開く

中国の4つの先物取引所は盛況であるが、どれも同じ問題を抱えている。これらは主に国内向けであり、海外からの参加がほとんど無いのだ。私はかねてよりこの問題を指摘しており、海外の投資家に対してもっとオープンになることが中国の喫緊の課題であると述べてきた。先物市場が国境を越えて発展しないかぎり、中国経済が享受できる先物のメリットは制限されるであろうと私は警告してきた。この指摘は現在でも当てはまる。中国が世界に向けて市場を開放すれば、国内市場が強化されるとともに、原資産の現物市場の流動性も高まり、一次産品の価格発見プロセスも改善されるだろう。これらはすべて、中国の実体経済にメリットをもたらす。私は公私を問わず、このことを機会があるたびに述べてきた。

CFFEXにはもう一つの悪名高い問題があり、取引所の経営陣や中国証監会もこの問題を認識している。この取引所では、出来高の80%以上をリテール部門が占めており、そのほとんどが投機である。この比率は、建設的な実需と投機のバランスではない。2015年の7月から9月にかけて発生したボラティリティの急騰は、中国を含む世界中の市場を揺るがし、必然的にCFFEXにも注目が集まった。CFFEXのトレーダーは、市場の暴落を引き起こした主犯者と見なされた。私はその考えに同意しかねる。

火を消し止めること

先物市場は、いつも最初に警告を発する場所である。これは特性とも言える。先物市場は、ニュースの良し悪しに関わらず、それを即座に反映することを使命としている。市場の透明性と利便性、アクセシビリティ、そして効率性によって、常にニュースに対して最初の反応を示すのが先物市場だ。

現物市場の反応は、それよりもずっと遅い。そのため、いつも決まって先物が問題を起こしたように見えてしまう。例えるなら、煙が立つ兆候を見つけて即座に行動を起こす優秀な消防士。または、患者の病気を最初に発見する腕の良い医者。それが先物市場である。彼らは、時として悪いニュースを最初に伝えたことで咎めを受ける。「悪い知らせを伝えた使者は、首をはねられる」というのが古代からの習わしだ。

しかし、彼らを閉め出したり、政府の介入によって活動を妨害したとしても、火事を消すことはできず、病気の患者も救われない。それはまるで、表示された温度が気に食わないからといって、体温計を投げ捨てるようなものだ。それでは問題を解決できない。

中国は、人民元を準備通貨にするという念願の目標を達成するために、流動性にあふれた力強い資本市場を必要としているが、そのためには先物のメカニズムが不可欠である。

市場の暴落後に、中国人民銀行の元副頭取のウー・シャオリン氏、および中国国務院発展研究センターの元補佐官であるリー・ジアン氏の指導の下で、名門の清華大学が"WeChat"上で同様の声明を発表した。その声明が強調したのは、株価指数の取引は市場の混乱の原因ではなく、より強固な市場を作るための推進役であるという点だ。

清華大学の研究は、私が以前に述べたことと同じ提案をしている。

1. 中国の商業分野に向けた教育を強化すること
2. 法的な奨励によって、中国の商業機関、証券会社、ファンドならびに信託管理会社が、株価指数先物のヘッジの恩恵を受けられるようにすること
3. 海外の機関投資家は、適格国外機関投資家(QFII)の認可を受ければCFFEXで取引できるが、この規則には制限があり、海外の投資家に対する十分な市場開放にはなっていない
4. 投機の取引には合理的な建玉制限を設けること
5. 過度なレバレッジに対しては適切な制限を置くこと
6. 国境を越えた取引を促進するために、あらゆる方策を実施すること

上がったものは…

中国では、次のようなことが起きていた。相場が暴落するまでの間、株式は中国人投資家にとっては外れのない賭けのように思われた。年率2%に満たない低金利の銀行口座に比べて、株式市場では遥かに高いリターンを生み出すことができた。中国のあらゆる街では、経験が浅く、資金をそれほど持っていない投資家が数千ものブローカーの店舗に押し寄せ、電光ボードに表示された価格を横目で見ながら、手当たり次第に株を買っていった。こうして、個人投資家が莫大な資金を株に投じ、株式市場を膨張させていった。

2015年の夏は、株価が右肩上がりに上昇した。バブルはどんどん膨んだ。PER(株価収益率)の世界的な平均は18.5倍だが、中国の株式市場ではPERが70倍に達する銘柄もあった。いくつかの企業の株式は、香港市場の株価に比べて、中国本土で取引される同じ銘柄(A株)の株価が2倍近くに上昇していた。上海証券取引所の株価は、わずか1年足らずで135%の上昇となり、深セン証券取引所にいたっては150%もの上昇を記録した。

当然のことであるが、どのような市場であっても、これほどの短期間で急激な上昇をした後には避けられない運命が待っている。それは劇的な下落、つまり暴落だ。バブルは大勢の投資家が引き起こしたもので、CFFEXに非があるわけではない。CSI 300指数は単なる金融のツールに過ぎず、暴落の理由にはなり得ない。

私はこの点について確信を持っており、著名な大学の研究者や国際金融の専門家の多くが、この意見に全面的に賛同している。前述の清華大学も同様であり、株価指数の取引によって株式市場の混乱が生じることはないという結論を明確に述べている。また、いくつかの法規制によって、投資家がA株の代替となる国外市場に目を向けるようになった点についても、同大学は指摘している。

1987 年の再来

1987年に、私は米国の株式市場で同じような経験をした。S&P 500先物は、1987年10月19日の一日だけで22%の暴落となった。その時の経験と、中国での出来事は驚くほど似ている。そのため、米国で起こった暴落を私たちがどのように乗り越え、将来に向けて何を実施したか、または実施しなかったかについては、分析する価値があるだろう。それが未来への指針となる。私たちは米国で何を学んだのか? 1987年の暴落から学べる最大の教訓は、市場の熱狂によって理性が吹き飛び、常識では考えられない水準まで株価が上昇した後には、市場の残酷な罰が避けられないということである。1987年10月19日は、私の人生において最も恐ろしい日であった。その日、私は多くの人物と会話を交わした。米連邦準備制度理事会(FRB) のアラン・グリーンスパン議長、レーガン政権の大統領経済諮問委員会(CEA)で委員長を務めていたベリル・スプリンケル氏、ニューヨーク証券取引所(NYSE)のジョン・フェラン理事長、多くの有力な上院・下院議員、そして他の取引所の役員たちとも会話を交わした。レーガン大統領を含め、私たち全員が一つのことに同意した。それは、やむを得ない場合に実施する数分間の小休止を例外として、市場を閉鎖してはいけないということだ。市場を閉鎖することは、私たちが知らなければならない情報を伝える最も大切なツールを失うことであると、私たちの全員が理解していた。それはまさに、患者が病気であるかどうかを知らせる体温計を投げ捨てるようなものだ。当時の決定は、先物市場の価値を守る上で最も重要な決断であったということが、最終的に証明された。

一方、現在の中国では、ある特定の原因によって暴落が引き起こされたという考えが沸き起こっている。基礎的な経済要因や心理的な要因が原因であることを示す多くの証拠があるにも関わらず、熱心な犯人探しが行われている。政府関係者や市場観測者の中には、特定の悪人が1987年の暴落を引き起こしたと主張する人たちもいる。米国の株価指数先物こそが、その犯人であるという主張だ。こうした意見に対しては、当時FRBの議長を務めていたアラン・グリーンスパン氏のコメントを引用したい。「株価は最終的に、にわかには考えられないような企業収益の増加と、価格の下落が決して起こらないという期待に基づく水準へと達した。崩壊はいつ起きても不思議ではなかった。もし10月に起きなかったなら、その直後に起きていただろう。暴落は、起こるべくして起こったのだ」

先物を制限すべきかという議論は、私たちにも聞き覚えがある。暴落が発生した当時、主な対策として検討されていたのが、先物の証拠金を従来の5%から50%程度にまで引き上げるという案だった。幸いにも、米国ではこの案が退けられた。その理由は、本来、証拠金はFCM(先物取引業者)の財政基盤を守るために存在しており、顧客やトレーダーの取引を促進したり、逆に抑制したりするためのものではないからだ。ノーベル経済学賞の受賞者であるマートン・ミラー氏は、「証拠金の議論は、遠回しのやり方で米国の先物市場を消滅させるためのものだ」と述べている。

最終的には、10%の証拠金が妥協案として採用された。それ以上の証拠金の引き上げは、先物の流動性を損なう恐れがあるとして却下された。流動性の喪失は、リスク管理のツールとしての先物の利便性を制限し、先物が米国の資本市場に提供してきた強みを失わせる可能性があった。さらに、過度な証拠金の引き上げによって、株価指数のビジネスが国外の競争相手に奪われる恐れもあった。これは、治療薬によって患者が死んでしまうケースに等しい。

新たなテクノロジーが生む可能性

もう一つの批判は、コンピューターのアルゴリズム取引が暴落を引き起こしたというものだ。これは誤りであることが証明された。アルゴリズム取引は、市場で特定の取引戦略をコンピューターに実行させることができる。効率性に優れ、コスト面でも利点のあるアルゴリズム取引は、主に機関投資家が利用している。一定の規制を設けることはできるが、テクノロジーの進歩は今後もとどまることはなく、人間の労働がコンピューターに置き換えられるケースもどんどん増えるだろう。テクノロジーの発展を止めることは、地球の公転を止めることより難しいかもしれない。現在、私たちは年中無休で、24時間インターネットに繋がっている。テキスト送信、ツイッター、Eメール、グーグル、ヤフー、フェイスブック、iPad、iPhone、YouTube、WeChat、そしてアリババを利用している。これらが無い世界に戻ることは、もはや不可能だろう

市場の暴落に関する議論は、最終的に、私が強く推奨してきた一つのアイディアに辿り着いた。「サーキットブレーカー」と呼ばれる仕組みである。これは、株価指数の値動きに上下の制限値を設け、その制限値に達した時に、一定の「小休止」を挟むという仕組みだ。サーキットブレーカーは、市場の規則の一部となり、NYSEをはじめとする様々な取引所で採用された。この仕組みは法律で施行され、現在も有効である。1987年の暴落についての77種類に及ぶ論文や研究が、1~2年後に相次いで公開された。その中で、“公式”の見解を述べたものが、1988年1月の『市場メカニズムに関する大統領特別調査委員会』で、俗に言うブラディー・レポートである。このレポートは、暴落の原因が先物ではないと述べる一方で、単一の規制機関と一貫した証拠金の維持が必要であると指摘している。

私が最も感銘を受けたのは、『調査委員会の所見』と呼ばれるレポートだ。これは、1987年10月19日の前後に発生した出来事の調査記録で、4人の第一級の市場専門家によって著されたものだ。(著者は、ともにノーベル経済学賞の受賞者であるマートン・ミラー氏とマイロン・ショールズ氏、アーノルド&ポーター法律事務所のジョン・D・ホーク氏、およびエール大学のバートン・マルキール氏) 彼らは自由闊達な意見を述べ、先物が暴落の原因ではなかったと結論づけた。取引の全体で見ると、実際には売りの圧力が先物によって吸収されていたことを彼らの調査は指摘している。先物はゼロサム・ゲームであり、あらゆる売りの反対側には、必ず買いが存在することを忘れてはならない。

最終的には、サーキットブレーカーと証拠金の調整を除いて、他のいかなる変更や法規制も行われなかった。米国の株式市場は、この決定を賞賛した。それから間もなくして、その後13年間続くことになる強気相場が始まった。最後の結論として、次のことを述べておきたい。卓越した金融のツールであり、資本市場の発展においても欠かせない金融先物は、すべての主要国で受け入れられている。ロバート・マートン教授の言葉をもう一度引用したい。「ある組織が金融上の戦略を実現するためにデリバティブを用いると、原資産の現物市場で証券を取引する場合に比べて、コストを10分の一から20分の一に削減できる。」 これが、先物の存在意義を示す最も力強い根拠ではないだろうか。

最近の株式市場におけるボラティリティの上昇によって、中国は私たちの経験や成功モデルから目を背け、指数市場の健全な成長を妨げるような策を打つだろうか? それとも、習近平国家主席が以前に述べた「市場の動きは市場に決めさせる」という指針に従い、金融先物市場の存続と発展を選ぶだろうか? 私は、中国が習主席の指針に従って進むことを信じている。

この記事は、2015年12月4日に中国の深セン市で開催されたChina International Derivatives Forumにて、Leo Melamed氏が行ったスピーチを元に作成されました。



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