グローバルな炭素市場: 現実化に向けた野心的な動き

Global Carbon

2015年10月15日 || RUSSELL BLINCH

商品市場は、現物の扱い方を熟知している。麦からコーヒー豆、金から原油まで、農家を始めとする生産者、そして流通や販売に至る当業者たちには、一堂に会する場を定め、値決めを行ってきた歴史がある。

そして21世紀初頭の今日、商品市場には、これまでに無かった様な、非現物的な取引対象が登場しようとしている。そして、この商品の扱い方は今、世界が直面する最大の問題の1つに立ち向かう上で、極めて重要な役目を果たすと考えられている。

その商品とはもちろん、2酸化炭素(カーボン)ガスであり、その取引システムのことである。

炭素ガスは大気圏に撒き散らされ、工業革命以来、地球の平均気温を既に摂氏1度近くも上昇させたとされている。そして現在、この排出に価格(コスト)の観念を導入することで、排出量を抑える効果が期待できる、との考えが大勢を占める状況となっている。

ただ、実体として捉え難いこうした対象商品の値付けについて明確な指針が示されないなか、排出量の抑制を訴える声は拡大の一途を辿っているが現状となっている。市場機能を介しての問題解決については、世界銀行のキム総裁が、「環境汚染や健康被害を改善し、クリーンな未来を保証し、貧困層を保護するための投資を各国政府が行っていく上での資金源を確保するため、カーボンガスの値付けでは最適な仕組みを作り出さなければならない」とした、新たな請願を行っている。

温暖化ガス排出抑制を巡る議論

カーボンガスに値付けする「最適」な仕組みについては、議論が集中している。単なる課税措置から、市場原理を重要視する専門家や企業、国などからも賛同者を集めてきているキャップ・アンド・トレード(排出量の上限設定と差分の取引)まで、「最適」な仕組みについて、提案は数多く存在しているのである。一方、市場原理による解決策については、参加者全てが同一のルールに基づいて取引を行うグローバルなシステムとして、それが実現可能なのかという疑念も呈されている。

IETA(国際排出権取引協会)の国際政策部門でダイレクターを務めるジェフ・シュワーツ氏は、「カーボンガスの値付けに関しては、キャップ・アンド・トレードが最適と考えている」として、「環境問題への対応としてキャップ(排出量上限、排出量抑制)が担保され、排出税などでは不完全な経済環境に対して、排出価格で対応する余地も担保されている」と説明する。

世界銀行の発表では、カーボンガスに値付けする仕組みについて、実働しているもの、計画されているもの、両者を合わせた数は、2012年以来で倍化している。そして、世界の40か国と23の地域で現在、実働している仕組みの市場規模は、カーボンガスで70億トンに及び、世界中で1年間に排出される温暖化ガスの12%に達している。

シュワーツ氏によれば、2015年初頭の段階で、世界の総GDPの40%は排出権市場の対象となっており、2017年から中国がこれを導入する予定になっていることから、その割合は飛躍的に高まるとも考えられている。

全ての道はパリに通じる?

こうした市場原理に向けた動きには現在、特に国連の気候変動サミットが12月に仏・パリで開催予定となっていることもあって、失速する気配が見られない。

IETAのシュワーツ氏は、「パリでの合意は、数10年間とは言わないまでも、今後数年間の気候対策を方向付けるものになるでしょう。気候変動の規模を考えれば、この合意を上手くまとめ上げ、その後の対策に必要となる全ての手段が利用可能となる状況を確保することが重要です」と話している。

実際、パリ合意には、世界に散在する状況となっているカーボンガスの値付けの仕組みのリンク化に向けて、起爆剤となることも期待されている。もちろん、世界共通の仕組みによる対応では、コストの削減と同時に、排出量をより大規模に、世界的規模で抑制することが可能になる。

12月の気候変動サミットに向けては、主要国の多くが温暖化ガスの排出量の減量策や抑制策を次々に表明していて、パリ合意への期待値は現状、高いと言える。さらに、CI(Climate Interactive)とMITスローン・ビジネス・スクールによる最新の分析によれば、こうした政策によって、今後10年間から15年間の地球の平均気温の上昇は摂氏2度以内と、世界各国の政府に広く受け入れられる範囲に抑えられると予想されている。

その上での課題は、こうした政策が適用期限を終えた後に、温暖化抑制のためのさらなる努力が必要となることである。平均気温が摂氏4度から5度上昇し、専門家が地球環境について危険、または破滅的とする水準に達すると予想されている現在、献身的な努力が国単位で継続されることは、必要不可欠なのである。

各国の政策対応についてCIのアンドリュー・ジョーンズ氏は、これまでの政策対応を高く評価した上で、「パリ合意が行動に移されることで、地球の平均気温の上昇を摂氏2度以下に抑えることが可能になります。現在、直面している政治的、社会的な課題は克服できる、と考えています」と、先々についての期待を表明している。

市場の力を利用する

パリの気候サミットで全般的な合意が成されたとしても、カーボンガスを市場に持ち込むことでその排出量を削減するという仕組みは、現実に機能するのだろうか?

実際には、こうした仕組みは既に稼働している。例えば、NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)は、2008年から排出権取引の仕組み作りに参加している。現在、CMEグループ傘下の取引所であるNYMEXには、米国や欧州、そして批判されることも多いEUに特化した排出権を含めて、一連のプロダクトが上場されている。

ただ、現状で提供されているプロダクトについては、12月のパリ合意を経てカーボン市場が進化することに合わせ、より革新的なものへと変化する必要がある、とも予想されている。

CMEグループでエネルギー・プロダクト部門のシニア・ダイレクターを務めるヘンリク・ハッセルクニップは、パリ合意が革新的なものになると共に、市場では、この重要な変化に対して、新しく、創造的な対応が喚起されるものと考えている。

OpenMarkets とのインタビューで、「パリ合意が定義されれば、必要とされるプロダクトについて、より明確な見解を持つことが可能となります」としたハッセルクニップは、「こうした変化に関して我々は注意を払ってきましたし、状況の見通しが改善し次第、可能な限り早急に対応する方針です」と話している。

ハッセルクニップはまた、「パリ合意を受け、対応作業が必要になるでしょう。ただ、大きな躍進を前提とした意気込み、そしてそれを背景に上場される野心的なプロダクトは、この分野の将来性を予感させるものになるでしょう」と期待している。

中国、そしてエネルギー企業

カーボンガスを取引する仕組みに関して、各国が国境を越えた取引を可能にすれば、そのコスト削減効果はより大きくなると考えられている。ただ、これに関しては、カーボンガスの値付けに懸念を持つ国々の一部が否定的な姿勢を示すなど、国際間における主要な対応課題となっている。

一方で、この課題に関する動きとしては、世界最大の排出国である中国と米国が対応への動きを新たにしている事実もある。地球環境を継続的な問題と位置付けている米国のオバマ政権は、第1次政権でキャップ・アンド・トレードの仕組みを稼働させる試みに失敗したものの、第1次・第2次の政権を通じて温暖化ガスの排出量削減に努力してきた。

国際的に事業を展開しているエネルギー企業もまた、気候変動への対応提起の声を高めている。米国の巨大エネルギー企業、エクソン・モービルはカーボンガスの取引について反対の姿勢を示しているが、欧州の同業会社、ロイヤル・ダッチ・シェルは先ごろ、取引のグローバルな仕組み確立に向けた行動指針を発表し、関係者の多くを驚かせた。

英国紙、ファイナンシャル・タイムスは、「気候変動の課題に立ち向かいつつ、より多くのエネルギーを提供するということについて、我々は現実的で実行可能な答えを、未来の世代のためにも求め続けなければならない」という、同社幹部たちからの書簡を紹介している。

画期的、それとも過剰に野心的?

グローバルなカーボン市場設立に向けたこうした盛り上がりは、実際には初期的な段階にあり、数年前に考えられたほどに革新的な水準に達しているわけではない。市場が成熟するには時間を要するし、カーボンガスの排出抑制に関しては、こうした無色、無臭の汚染物質の取引において、現物商品と同等の適正さが市場取引にあることを証明する必要も、残されているのである。



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