米国のQE撤退がアジアにもたらすもの

What US QE Retreat Mean

2013年9月17日 || OPENMARKETS

近年、世界の主要中央銀行は、大規模な金融緩和政策をとっている。金利をほぼゼロにまで引き下げ、バランスシートを拡大させてきた。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は、ようやくバックギアを見つけたようである。量的緩和(QE)、そして長年にわたる金融資産の買い入れを巻き戻す「縮小」策が準備されている。

太平洋の向こうのアジアでは、FRBの動向に戦々恐々としている。QEが、さまざまな通貨市場および資産市場を押し上げている要因とみる向きがあるからである。すでに縮小の予想だけで、世界中の資金が逆流している。それによって、アジア諸国など新興市場の通貨が急落しているのである。

QE反転がもたらす意味とは何か、全体像をつかむためCMEグループの主任エコノミストでOpenMarketsの寄稿者でもあるBlu Putnam氏に聞いた。

FRBの政策、そして縮小によって起こり得る影響について、どれだけ明確になっているのでしょうか?

米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合がある9月18日には、かなり明確になっていると思います。今のところ、市場参加者の意見が一致しているのは、QE縮小策について重要な発表があるだろうということだけです。

FRBは、資産の買い入れ縮小を準備するにしても、データ、特に雇用統計がどのように推移するかによって、数カ月先に買い入れを増やすか減らすか、市場にはっきり分からせようと、細心の注意を払うでしょう。
またFRBは、QEの出口戦略を進めている間、またその先のしばらくの間も、フェデラル・ファンド金利の誘導目標をほぼゼロにとどめる意思を明らかにしています。つまり、インフレ圧力がはっきりと現れるまで、大規模な金融緩和政策は続くであろうということです。そして実際のところ、現在の米国にはインフレ圧力が見当たりません。

また、FRBが資産によって縮小の速度を変える可能性もあります。つまり、こういうことです。現在のプログラムでは、FRBが毎月、400億ドルの不動産担保証券と450億ドルの米国債を買い入れています。その米国債のうち、満期まで10年以上のものが約25%です。米国債市場での利回りへの実際の影響度からすれば、長期債の買い入れこそが、その他の買い入れよりも、はるかに重要といえます。

ひとつのシナリオとして考えられるのが、FRBが徐々に、雇用市場の強さ、そして比較的脆弱な米住宅市場の回復について、より強く意識するようになってきたことです。住宅価格が上昇しているとはいえ、市場には、信用供与のプロセスに対する懸念があります。住宅販売の多くは、現金もしくは多額の頭金によるものです。ローンを組めるのは、最も信用力のある借り手だけなのです。

しかも米政府は、政府系住宅金融機関であるファニーメイとフレディマックを縮小させようとしています。FRBによる不動産証券の買い入れは、その金利には、ほとんど影響しません。なぜなら、不動産証券の価格は、米長期債の利回りに基づいているからです。しかし、FRBによる不動産証券の買い入れは、不動産証券市場の流動性に厚みを加えます。つまりFRBは、不動産証券の買い入れよりも、米国債の買い入れを急速に減らしていく選択をする可能性があるわけです。

現在、非常に多くの中央銀行が、量的緩和型の政策を展開しています。こうしたなかで、通貨予測に新たな手法が必要でしょうか?

主要経済圏の通貨価値が、伝統的な経済の基礎的条件よりも、政治的配慮および政策転換で動かされることを、ますます実感するようになりました。

FRBがQEを止めたとしても、米国、欧州、日本では、どこもなお、ほぼゼロの短期金利、長期的に見ると低い経済成長、そしてインフレ圧力のない状態が続くでしょう。したがって基本的に、米ドル、ユーロ、日本円はすべて、弱い通貨の特徴を有しています。しかし、為替レートというのは、すべて相対的なものです。ユーロと円が根本的にさらに弱くなっていなかったとしたら、これは米ドルにとって悪い状況であったといえるでしょう。ところが実際には、米ドルは基本的にトップの座にあるのです。

短期的には、政治的決定プロセスの盛衰に注目するしかありません。そして長期的には、インフレ圧力を監視することです。「最初に、どの国で、実質的なインフレ圧力の生じる可能性があるか?」が問題となります。そして「そのインフレ圧力が、中央銀行に金利引き上げの行動をとらせるか?」です。
ミルトン・フリードマンは、金融刺激策とインフレとの間には、長く、そして可変的な時間差があると指摘したことで知られています。

金利引き上げを考える主要国は、強い通貨を手に入れるでしょう。しかし、今のところ、金利引き上げの可能性を真剣に考えている国はありません。

2%のインフレ達成を政策目標としている日本の現状について、どう考えますか?

日本で最後にインフレ測定値が2%を超えたのは、2008年7―9月期でした。世界金融危機と景気後退がデフレを引き起こす直前です。現在、日本の消費者物価指数は、前年比0.7%とわずかに上昇しています(2013年7月現在)。しかし、この上昇のほとんどが、エネルギー価格の上昇によるものでした。食品とエネルギーを除いたコアインフレは、前年比マイナス0.1%です。

参考記事:FX先物で、円が昇る。


インフレ圧力が現れたと分かれば、安倍首相と日本銀行を含めた彼のチームは、物価上昇に喝采を挙げるでしょう。私たちの基本シナリオでは、コアインフレが2014年1月のデータ(同年2月末に発表)で、1%上昇で発表されるとみています。ただし、円が再び弱くなる期間を経ないかぎり、インフレがこれよりも高い流れにはならないでしょう。そして円が弱くなるかは、はっきりしません。

日本にとって次に大きな課題が、消費税率を2014年4月に5%から8%に引き上げるかの決断です。安倍首相は税率引き上げを認める可能性があると、多くの兆候が示しています。この大規模な消費税率引き上げで、引き上げ前の2014年1―3月期の消費支出は、相当増加するでしょう。しかし残念ながら、税率引き上げを実施してから数四半期の間は、実質GDPが減少するとみています。消費税率引き上げ調整後のインフレデータは、再び下落する可能性さえあるのです。したがって首相は、自らの経済プログラムを推進していくために、さらなる刺激策が必要か、判断しなければならなくなるでしょう。

QEがアジア通貨を上昇させたのだとすると、FRBの縮小策もまたアジアに大きな影響をもたらすとみるべきでしょうか?

中央銀行の資産買い入れによる最初の結果のひとつが、市場からある程度のリスクが取り除かれたことでした。そしてこれが、新興国市場の通貨など、よりリスクの高い資産にうまく機能したわけです。その逆で、米国のQE離れは、より高く、より普通のボラティリティへと反映されました。そしてボラティリティが上昇したことで、新興国市場の通貨を含む高リスク資産への露出を減らす市場参加者が出てきたのです。

新興経済圏にとって不幸だったのは、FRBのQE出口戦略に関する議論が、世界の市場で政治的リスクが認識されるようになった他の多くの無関係な要因と、同時に生じたことでした。ブラジルでの経済発展に対する抗議デモ、トルコでの開発計画に対する抗議デモ、エジプトでの政治的自由に対する抗議デモ、あるいはシリアでの内戦による悪影響など、政治リスクに関する不安は、たくさんあります。繰り返しますが、市場の反応は、アジアおよび中南米の通貨を含むすべての高リスク資産への露出を減らすことなのです。

ブラジルを除くほとんどの国が、概して小幅の利上げを選択し、為替介入を回避しています。通貨の価値が、より低い水準へと落ちたとき、これらの通貨の多くは、地政学的リスクが一時的に落ち着けば、再び魅力的に見えてくるでしょう。

では、金融自由化の改革を推進している中国に与える潜在的な影響については、どうでしょうか?

中国は独自の通貨路線を選びました。それは、積み上げた外貨準備を主要な金融政策の手段として利用することです。近年、中国は人民元を安定させるため、数兆ドルの外貨準備を積み上げてきました。また、その資本規制によって、理論的には、FRBのQE縮小に対する中国のリスクは低いはずです。しかし中国は、もはや持続不可能なインフラ支出モデルから国内需要成長モデルへと進化する転換期にあります。

国内需要の成長を促進するため、中国はより柔軟な金融政策を考慮し、より速く金融市場を発展させようとするでしょう。そしてこれはまた、国内需要の成長を支援するということで、世界市場とのさらなる一体化が中国のためになることを意味しているのです。



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