「価値のインターネット化」と 決済システム

internet of value

2015年8月26日 || OPENMARKETS

インターネットを介して、情報やデータが即時的に伝達される時代である。ただ、決済についてはどうだろうか?リップル・ラボ(Ripple Labs)が構築を目指しているのは、情報やデータがインターネットを介して伝達されるのと同等のスピードで、取引代金などの「価値」資産がやり取りされる世界であり、グローバルな「決済システムのインターネット化」である。相互運用が難しい状況となっている国際間の支払いシステム問題にソリューションを提供し、「価値」のやり取り(決済)が、グローバルなネットワークを介して、即時的に実行されるシステム環境の実現なのである。

リップル・ラボの試みでは、集中管理の役割を設定しないで、管理台帳を分散させることで、このソリューションを提供しようとしている。新興企業であるリップル・ラボのこのアイデアは、例えば資金移動のフォローを可能にするブロックチェーン(blockchain)など、ビットコイン(Bitcoin)から想起されたプラットホームを基本としている。その上で、このプラットホームは、ビットコインという特定資産に限定されることなく、現在流通している各国の通貨を含めて、価値が認められている資産を用いた決済を可能にしている。

こうしたアプローチを背景に、リップル・ラボは即時決済分野のリーダーとして、注目度を高めており、最近では世界経済フォーラムから、「テクノロジー・パイオニア」の称号を得るに至っている。

本拠地をサンフランシスコに置くリップル・ラボの創業者でありCEOのクリス・ラーセン氏に、CMEベンチャーズのエグゼクティブ・ディレクター、ルミ・モラレスが行った インタビューの全容は、ポッド・キャスト( CME Group Tech Talk Podcast)で聞くことが出来る。
そして、以下はそのダイジェストである。

Chris Larsen
2012年、リップル・ラボを共同創業したクリス・ラーセン氏

「価値のインターネット化」という言い方をご自身でもよくされますが、その意味合いは?
決済ネットワークにおける世界的な問題は現在、それぞれが効率的な決済システムではあるものの、これらを繋いで相互に運用することは難しい、ということです。米国の決済ステムは欧州のそれに対応していないなど、国際決済の分野は、インターネット以前の時代に取り残されているのです。海外への通信手段として、一般的には電話や手紙が使われていた時代の代物ですから、国際的な資金決済分野には恐ろしく高コストのシステムが温存されているのです。ただ、決済分野を除けば、全世界に向けて、即時的に、ほとんど無料で、というのが今日のコミュニケーションの常識です。もちろん、電話や手紙などの手段が完全に淘汰されてしまったわけではありませんが、コミュニケーションの世界は、過去には想像も出来なかった様な、新しい環境に昇華しているのです。

こうした流れの中における「価値のインターネット化」は、個々の決済ネットワークを相互運用しようとする際に生じる問題を解決し、情報やデータなどと同様に、現在のネット環境の下で、決済に伴う「価値」の移管も行えるようにしようとする、初の試みなのです。「価値」の移管や交換についてはこれまで、発生する資産の移動を中央で一元管理する機関(役割)を必要としていました。特定の国や民間機関が、こうした「価値」の移動を「承認」する役割を負っていたのです。画期的なのは、こうした一元的管理を必要としないシステムとして、リップル・ラボが「分散型台帳」というコンセプトを採用したことです。これまでの国際決済が抱えていた問題に対するソリューションは、これによって提供が可能になったのです。

ブロックチェーンなど、分散型台帳を採用したシステムは他にもありますが、リップル・ラボのシステムはどう違いますか?
ブロックチェーンはビットコインを前提としたテクノロジーですが、分散型台帳システムの総称として使われる場合も多くあります。実際、このテクノロジーが背景となったことで、デジタル資産としての新通貨であるビットコインの導入は、世界的に成功したのだと思います。リップル・ラボのプラットホームもこれに影響を受けていますが、我々は同時に、新通貨の導入はそれほど重要なことではなかった、とも考えています。

もちろん、デジタル通貨の新規導入は興味深い話なのですが、リップル・ラボが目指すソリューションに関していえば、それは主要課題ではないのです。世界には数多くの通貨が既に存在しているのであって、課題は、そうした通貨の移動をどれだけ効率的に行えるか、ということなのです。ビットコインで欠けていたのは、例えば米ドル、ユーロ、中国元など、既存の通貨をプロトコールに加えることを可能にする機能だったのです。個人でも金融機関でも、求められているのは既存のバランスシートを管理する機能なのです。実際、「価値のインターネット化」を実現するためには、資金管理の分野で主要な役割を負っている管理機関を取り込まなければ、システムの実用化に向けて、現実的な問題を生じさせることになります。例えば、インターネットの創世期には、「知」に関する主要な管理者がそこに存在していました。この前提はインターネットの実用性を高め、その後、グーグルやフェイスブックが開花する環境につなげていったのです。リップル・ラボのプロトコールは「価値」を有するもの全てに対応可能ですが、当面は、既存の通貨が主な対象資産だろうと予想しています。

資金の移動や取引の決済では、その確実性や安全性が重要ですね?
リップル・ラボのシステムは主体的に、債務を決済するものです。また、このシステムにアクセスするため、銀行や決済機関では新たなテクノロジーが追加的に必要となります。ただ、重要なのは、ユーザーは既存の銀行システムを介して、管理機関から現在提供されている利用者保護の下で、リップル・ラボの決済システムを利用する、ということです。もちろん、ここでの操作については、資金洗浄など、当局の規制が有効に適用されています。

リップル・ラボのシステムの基本となる台帳では、暗号化の段階から安全性を確保しています。また、分散型台帳というコンセプトでは、実質的にデータベースを共有することになりますが、これによって台帳の状況についてコンセンサスが得やすくなるというのは、数学的に確実なのです。台帳の状況とはバランスシートのことですが、前述した様に、これを形成するまでの過程では、資産の管理者が用意しているものを含めて、既存のセキュリティー・システムが何層も存在します。分散された各台帳の内容には、確認を重ねた結果が反映されているのです。

セキュリティーの観点からは、追加的な措置を希望するユーザーも多いと思います。ただ、私は、その目的のために金融界が構築するに至った既存の安全水準を毀損する必要はない、と考えています。

インタビューのポッド・キャスト (英語):

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