原油相場暴落とデリバティブ・プロダクトの役割

Oil-Price-Derivatives-640x360.png

2015年4月22日 || アラン・バニスター

原油相場は過去数か月で50%超の下落となり、世界中を驚愕させた。さらに、市場の関心は現在、早急な相場の反発を期待するというよりも、安価な原油を背景とした新しい時代に向けられている。

新たな原油価格の時代におけるビジネスでは、その不確実さを見積り、管理しようとするとき、異なる資産の間の相対的な関係だけでなく、先物やオプションが有効なリスク管理ツールとなる。こうしたツールを利用し、確実なキャッシュフローを維持することで、エネルギー市場のショックからビジネスが受ける決定的な影響を緩和することが可能となるからである。

原油市場では、バレル当たり100ドル超という水準に市場が早急に回帰する可能性は低いと見られており、実際に市場では、相場の底値予想が大勢を占めている。ここでは、投資銀行の多くが予想値の引き下げを断行した結果、2015年については平均で50ドル、2016年については同60ドルほどとされている。市場リサーチと売買仲介のバーンステイン社は、OPEC(石油輸出国機構)非加盟の生産上位50ヶ国の平均的なバレル当たりの生産コストを根拠に、原油価格の底値を40ドル程度と予想している。価格がそれ以下になれば、生産した原油がもたらす利益は無くなるからである。

ただ、「一般的な石油会社」というものが現実には存在しないことから、原油価格の動向がエネルギー業界に与える影響について、単純な解が得られていないのも現状となっている。

言えることは、原油生産に携わる分野は厳しいビジネス環境にさらされるであろうということであり、油田開発や生産に係わるサービス分野の状況は、特に厳しいものになるであろうということである。
現状の価格水準で既に、原油生産の縮小や中止は確実に実施されており、大規模な人員削減についても、シュルンベルジェ、ハリバートンやベーカー・ヒューズなど、業界大手がその方針を明らかにしている。

また、原油価格の下落傾向が天然ガス市場に波及するにつれて、そして、再生可能エネルギーを含めたその他のエネルギー分野での競争が激化するにつれて、業界が全体としてこうした動きから影響を受けるのは不可避である、とも考えられている。

例えば、近年の米国におけるシェール原油の隆盛は、天然ガス価格の下落要因となったばかりでなく、典型的な競合商品である石炭の生産にも多大な影響を与える結果となってきた。同様に、風力や太陽光など、再生可能エネルギー分野に対しても、原油価格の先安見通しは圧力となっている。この分野には、原油高騰が原動力となって投資が拡大され、再生可能エネルギーに関する新技術の導入や革新が進展してきた背景がある。また、天然ガスについては、船舶を始め大型トラックやバスなど、輸送燃料としての活用が世界的な広がりを見せてきている。この傾向は今後も続くと考えられるが、その拡大スピードは安価な原油価格の影響を受けることになる。

グローバル・インパクト

ほとんどの人にとって、そしてビジネスにおいても、エネルギーのコストは高いものであり、その価格が低下することによってもたらされる利益は広範囲にわたる。今回のエネルギー価格低下に関しても、米国の企業や消費者にもたらされる利益は1000億ドルの減税に匹敵する、と証券会社のクレジットスイスは概算している。

国家間では、より安価な原油価格の下で、支払が減少する輸入国と収入が減少する輸出国との間で、大規模な富の移管が発生する。そして、マクロ経済的な影響に関しては、国毎に大きな差異も生じている。例えばアジアでは、価格低下を背景に、燃料に対する補助金の減額がインドネシアで断行される一方、輸出収入低下を背景に、マレーシアは政府支出の削減と経済成長の下方修正を余儀なくされている。

また、主要な原油輸出国は資産の評価損に見舞われることになり、その影響は長期的なものになるだろうとも指摘されている。世界を巡る大規模な資金の多くは原油市場を背景としたものであり、ロンドンを含めた不動産市場の動向は、こうした資金の動きが背景となってきた。市場はこうした投資資金の動向変化による影響を受ける可能性があり、国富ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)においては、予想外の資産クラスを含めて、その投資資金が縮小される可能性も否定できない。例えば、イングランド・プレミアリーグのサッカー・チームであるマンチャスターシティFCは実質上、アブダビ石油会社からの資金提供で運営されている。


さて、ここまで、原油価格の下落が及ぼす影響の広がりをいくつか見てきた。問題は、こうした状況の下で、先物やオプションがどう役立つのか、ということである。

下落相場の中で既に発生した影響に関して、先物やオプションはそれを軽減するツールとはならない。一方で、将来的に発生するリスクに関しては、それを管理するためのツールとなる。例えば、現状の価格的な有利さを確保しておきたい旅客航空会社などの大手ユーザーは、将来的な原油価格の上昇に備えて、期先限月の先物や長期のオプションを使うことで、その有利さをヘッジすることが出来る。一方、原油の生産者も同様に、将来的な原油価格の一段安に備えることが出来る。

原油の市場環境は現在、こうしたプロダクトに高い流動性をもたらしている。例えば、最近の急激な動きを背景に、現物市場のヘッジャーは、新規の建玉を設けるなど、行動することを強いられる状況にある。同様に、資金運用者やヘッジファンド、投機家においては、原油価格の下落が続いていることから、既存建玉の解消や損切りを実行するべき水準に相場が達する可能性も指摘されている。こうした市場環境を背景に、WTIの売買高は3月月間で1800万枚に達し、前年同月比で53%増を記録した。また、NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)のブレント先物は同117%と、大幅増となった。

New-Picture-1-640x341.png

CMEグループ傘下の取引所に上場されているデリバティブ・プロダクトが有効に機能するのには、それぞれの市場に、金融や商品など、異なるリスクの度合いと取引戦略を持った、多様な取引参加者が存在しているという背景がある。

最近の原油市場下落に関していえば、業界人の多くがその相場動向の激しさに驚かされる結果となった。そこには、ヘッジを実行する機会が乏しかったのである。バレル当たり105ドルで取引されていた時点では、80ドルのプットもそれほど高額ではなかった。しかし、当業者の一部はそうしたヘッジをしなかったし、その必要性を認識してもいなかった。その後の市場動向から学習するべきものがあるとすれば、ビジネスは相場インパクトに対する準備をしておく必要がある、ということだろう。相場の上昇であれ、下落であれ、先物とオプションは価格リスクを管理する方法の1つで、ビジネスの利益水準防衛に寄与するツールなのである。



Related Entries
CMEグループについて

CME Group
CME、CBOT、NYMEX、
COMEXから成り、世界を
先導する多彩な金融市場です。
グローバルおよび地域的経済・
金融に関するブログをお届け
します。CMEグループの日本語サイトはこちらをクリック。

CMEグループのリソース
CMEグループのツイッターで
@CMEGroupJapanをフォローください。
月次アーカイブ
検索
QRコード
QR
OpenMarketsについて
OpenMarketsは、CMEグループが発信するオンラインマガジンです。本ブログは、日本のトレーダー向けに、主に同マガジンから抜粋した記事を翻訳した
ものです。新たな商品紹介、
ケーススタディ、テクノロジー アップデート、今話題のトピックなど、デリバティブ産業への
従事にお役立てください。