中国の食品会社買収意欲とその先にあるもの

WHAT CHINA’S APPETITE FOR FOOD COMPANIES MEANS FOR FUTURES

2014年8月29日 || NELSON LOW

中国の旺盛な食欲はほぼ必ず、一連の商品価格が決定される際に勘案される要因となる。そして今、そこには新しい流れが起きている。中国が国際市場で手当てしているのは豚肉や大豆だけではなく、食品や農業製品の企業にまで及んでいるのである。

重要なのは、こうした海外企業の買収に伴うリスクを管理するため、中国の旺盛な購買意欲は単に農産物市場全般だけでなく、国際デリバティブ市場にも影響を及ぼしてくることが予想されることである。

北京から遠く離れたカリマンタンの大農園やベルギーの製粉会社など、新たに買収した海外事業を抱え、循環性の強い商品相場のリスクを管理するため、中国企業はデリバティブを活用する上で必要となるノウハウや専門知識の多くを取得しているのである。さらに、買収を経た中国企業の事業規模は、格段に拡大している。買収を経て新しく誕生した企業は、桁違いのバランスシートを持ち、その購買力は国際商品市場や関連先物市場でも意識されるべき存在となっている。 実際、こうした市場での中国企業の取引量は、今後も拡大するとみられている。

そして、こうした中国企業の重要な転換は、中国での人民元国際化、資本取引自由化などの取り組みと同時並行で起きている、ということもある。 中国企業による外国企業の買収を背景に、決済通貨としての人民元に対する認知度も促進される関係になっているのである。

ただ、中国で新たに芽生えた海外の食品会社買収に対する関心の高まりは、食料安全保障がその主要な背景となっている。 単に商品在庫を積み上げるのではなく、当局は業界内での再編を通じて、より広範に業界の効率化を実現する必要があると考えている。

さらに、こうした傾向が今後も続くと考えられる理由も、いくつか存在する。

第1に、それが国家の支援を背景とした政策であると考えられることである。 例えば、中国投資有限責任公司(CIC)(CIC:中国のソブリン・ファンド)の会長兼最高経営責任者の丁学東氏は、「(CICは)世界中の農業、そしてバリューチェーン全体への投資拡大を考えている」と、最近ファイナンシャル・タイムズ紙の論説の中で述べている。

これには、経済政策の優先順位を、投資から消費へ移行させようとしている政府の意向が、中国の食料購入意欲に変化をもたらしているという背景もある。 さらに、家計所得の増加に伴って、高タンパク、高品質な農産物への需要が中国で高まりをみせている、ということもある。

こうした中、13億の人口を抱え、その食糧供給を継続的に維持することが大きな課題となっている。海外企業買収はこの課題に対応しようとするものであり、効率改善とベストプラクティスを導入することで、中国の食品業界の質的向上に寄与しようとするものなのである。 また、業界改革の必要性が緊急的に高まっているのは、この食品安全性の危機テキストで裏付けられている様に、最近、中国国内の食品サプライチェーンに対する信頼が著しく低下したことにも起因している。 耕地面積が限られている中国は、同様に広大な国土を有する一方で、その人口が中国の4分の1に過ぎない米国などに比べて、不利な条件下にある。

双匯国際控股有限公司(現在は万洲国際(WHグループ))が米国の養豚会社、スミスフィールド・フーズを昨年、71億ドルで取得した買収劇は、食品分野における中国のこうした新たな意図を際立たせることになった画期的な出来事だった。 さらに、中国のバイヤーは、英国の食品会社、ウィータビックス、そしてレストラン・チェーン、ピザ・エクスプレスの過半数株式取得にも飛びついた。

食肉消費全体の4分の3を占める豚肉は、中国人の食事に欠かせない。その意味でも、スミスフィールドの買収は重要性が高い。 したがって、中国当局にとって、豚肉業界において効率的なリスク管理を実現することは、政策運営上の重要性も高いことになる。

一方、中国の食肉会社はこれまで、主として国内生産を重視していたことから、デリバティブをリスク管理の手段として使うことは稀だった。 ただ、スミスフィールドの買収を経て、状況は一変したのである。WHグループは現在、国際的なリスク管理を徹底させざるを得ない状況に身を置いている。

こうしたリスクは今年、米国で豚流行性下痢ウイルスが発生したことにより、市場で価格変動率が高まり、相場が高騰するなど、表面化している。牛肉相場でも(幸い、ウィルスが要因ではないが)価格変動率が上昇し、同様の相場トレンドが指摘されている。 米国では2013年、飼育牛頭数が記録的な低水準となったのである。

中国企業による新たな動きが見られるもう一つの分野は農産物市場で、中国糧油控股有限公司(COFCO (中国糧油控股有限公司))による買収攻勢が指摘されている。 既に今年は、ノーブル・グループの砂糖、大豆および小麦事業の株式、51%を15億ドルで取得している。この買収は、オランダの商社、ニデラの株式を同様に取得したのに続いて行われたものである。

こうした企業買収は、食料安全保障政策に関して、これまで主に国内生産の支援、または農産物の在庫積み増しに重点を置いてきた中国の姿勢とは、全く異なるものとなっている。

前述の様に、こうした買収劇を経た新会社は、複数の大陸を網羅するサプライチェーンの統合を通じて、グローバルなリスク管理手法や潜在的効率性の活用に関する相当なノウハウをCOFCOにもたらすことになると予想される。したがって、リスク管理を目的としたデリバティブ取引の活用について、中国企業がこれを習熟するプロセスは加速的となる可能性が高い。

また、中国が業界統合の取り組みを加速し、効率向上を目指した措置を講じている産業には、乳業もある。この分野では、中国は既に世界最大の乳製品輸入国であり、ここ数年で、その旺盛な需要が世界市場の価格押し上げ要因として指摘されている。

また、中国での海外の乳業メーカーに対する買収意欲の背景には、2008年のメラミン混入粉ミルク事件がある。 この事件を引き起こした乳業メーカーの三鹿集団は、中国で現在進行中の乳業業界統合の流れを引き起こす契機となったのである。

今日、国内最大の乳業メーカーである中国蒙牛乳業はCOFCOを最大株主とし、中国で進行中の業界統合の取り組みの中心的的企業となっている。 昨年、中国蒙牛乳業は、原料乳の生産量で国内最大の中国現代牧業に対する出資比率を28%に引き上げている。

中国政府は、粉ミルク・メーカーについて業界の統合を進めた上で、大手の10グループ程度にまで再編し、各グループの年商を20億人民元(3億2,300万ドル)以上とする・計画を公表した。先々においては、その水準を年商50億人民元以上とし、3~5社に集約する計画である。

大量のミルクを扱う大規模な事業展開をもった巨大企業を形成するということは、相場変動に対するリスクも巨大化するということになる。そして、こうした中国の大規模乳製品メーカーは、価格リスクをヘッジするため、CMEグループやニュージーランド証券取引所など、乳製品先物を上場する国内外の先物取引所に関心を向けざるを得なくなる。

もちろん、デリバティブを上手に、効果的に活用してリスクを管理する様になるには、経験を要する。 デリバティブの利用について未熟な場合、これまで、投機的ポジションで”遊ぶ”という傾向がよく観察された。 こうした場合に取引損失をこうむると、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という認識につながる場合も多かったと考えられる。

とはいえ、とりわけグローバル市場で事業を展開するにあたり、リスクを低下させる意図でリスク管理ツールの使用を抑える場合、これは同様に危うい落とし穴となる。

例えば、2004年~2005年に起きた中国の大豆危機では、国内生産者の多くが価格変動の高まりに対する準備ができていなかった。 結末として、その多くが多国籍企業に身売りせざるを得なかった。

つまるところ、この教訓が示しているのは、相場変動が激しく、相関性が高いグローバルな商品市場に発生するリスクを管理するため、農業製品や食品などの企業は、デリバティブを効果的に活用する方法を習得する必要がある、ということである。そうすることで、効率性、収益性が改善し、企業としての長い寿命が保証されることになる。




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