米国の石油市場が需給を反映する理由

WHY U S OIL MARKETS REFLECT SUPPLY AND DEMAND

2014年1月31日|| BOB LEVIN

近年の北米地域における石油の増産はすでに広く知られている通りだ。米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の報告によると、カナダの石油生産量は2005年以降、安定的に増加を続け日量100万バレル拡大した。一方、米国はそのカナダの増産のスピードを上回り、5年に満たない期間で日量350万バレル増やした。このため信頼に足る複数の研究機関とアナリストが、米国は2020年までに世界最大の産油国になると予測している。

世界の石油生産に占める米国の実際の順位とは関係なく、北米の増産がかくも劇的である点に議論を差し挟む余地は存在せず、その増産は予見可能な将来においても継続が予想され、米国は世界の石油需給のファンダメンタルズに重要な役割を果たすことになるだろう。

価格への影響

他の条件がすべて同じなら、増産により、北米の原油価格は他の地域に比べ安価に推移するはずだった。さらに北海油田の急激かつ継続的な減産は北米の増産よりも先に起きているので、北海ブレント原油の価格は北米産を上回っていなければおかしい。実際に、十分なだけの条件が“同じ”であったために北海油田の原油価格は米国産を上回って推移していたが、もちろん現実の世界で“他の条件がすべて同じ”ということはありえないので、全期間にわたり常に継続的に上回っていたわけではない。

その理由のひとつは北米の石油流通システムの拡大が増産に対して遅れていたことにあるが、この遅れは分析方法にもよるが1~3年はあったとされる。

この期間の北米内陸部(ミッドコンチネント)の石油供給はメキシコ湾岸に比べ増えており、(さらに長期の調査で評価は固まるだろうが)それは価格にも反映されている。この論理的な帰結は完全にファンダメンタルズと一致しており、北米内陸部とメキシコ湾岸の価格差は、メキシコ湾岸側に有利な格好で拡大した。例えば、これをEIAが公表している国内産原油の精製取得原価(Refiner Acquisition Cost)で見れば、2011年初春にバレルあたり5ドルに拡大した価格差は、2012年秋に同19ドルまで達している。北米内陸部からメキシコ湾岸への送油を日量約40万バレルに高めたシーウェイ・パイプライン逆送開始の直前のことだ。

シーウェイ・パイプラインの逆送は北米内陸部からメキシコ湾岸への送油能力向上を実現しただけだが、それ以降、価格差は急速に解消に向かい、本稿執筆準備時点で公表されている直近の6月と7月ではこの差は約2ドルにまで縮小している。バレルあたり2ドルの価格差は2011年春以前に比べればやや大きいが、それでもかなり近づいている。本稿で精製取得原価を用いたのは、EIAが正式に発表している数字であると同時に、製油所が実際に支払った原油価格を表していると認められるからだ。

ただ、データ算出の前提となる原油流通システムは毎月変わる可能性がきわめて高く、従ってデータ算出には公表されていない変更が織り込まれていることになる。もし別の価格体系、例えば報告されるスポット価格を代わりに使うとしても、データの一貫性が必要で、これが異なる場合には同程度の妥協を余儀なくされる。本稿での最大の目的は北米内陸部とメキシコ湾岸の原油価格の関係性を明らかにすることであり、精製取得原価はこれをよく表している。

北米産原油の価格分析

米国市場の魅力、そして多くの人々に認められている特徴は、WTIを含む米国の原油価格が需給ファンダメンタルズをきっちりと反映する点にある。概して商業市場(コマーシャル・マーケット)はこうした特徴の確保を目的に構築し、組織化されている。米国商業石油市場の受渡しを含む市場メカニズムは、市場参加者に喜ばれ、ビジネスをサポート・発展させることを念頭に置いて、妥協のない設計が心がけられている。市場は複雑さと不要な参入障壁を排除しており、それにより巨大な流通システムの中で活発なアービトラージ(サヤ取り)を可能にしている。結果として米国の商業市場には莫大な数の人間が直接参加し、アービトラージが原動力となり、計り知れないレベルの透明性と競争を紡ぎだしているのだ。

それに呼応するように、価格は需給と競争を映し出す鏡となっている――そしてそれは米内陸部とメキシコ湾岸の供給関係で今まさに進行している現実であり、前述の通りである。価格差が収束した理由は、米内陸部の産油地域からメキシコ湾岸を含む米国の各地域に原油を流通する能力が飛躍的に向上したためだ。送油能力は過去数年間で日量200万バレル拡大したが、メキシコ湾向けの送油は2013年第4四半期から14年第1四半期の間に、さらに日量150万バレル上乗せすることになる。EIAによると、2013年中旬時点では、鉄道を利用する送油は日量140万トンだった。前述の通りだが、シーウェイ・パイプラインの逆送開始でメキシコ湾岸への送油能力は日量40万バレル増加しており、14年第1四半期に予定されている同ラインのループ化(訳注:実際には並行パイプライン)により送油量はさらに2倍に伸びる。

キーストーン・パイプラインのサザンレッグ(南伸部分)は1月に運転を始めており、最終的に送油能力を日量75万バレル高めることになる。さらに2014年第1四半期中にはマゼラン・パイプラインが始動し、日量25万バレル増強の予定だ。市場はこうした送油能力の拡大を反映してきたが、今後も新たな送油設備の増強に伴い、そうした状況は続くと考えられる。

EIAはPADD(米国防石油行政区)間のパイプライン、タンカー、バージによる送油のヒストリカルデータも公表している。ただしこれまでのところは、このデータに鉄道輸送の記録は含まれていない。つい最近まで、メキシコ湾岸から中西部への送油は逆方向に流れていた。EIAによれば、2005年までは、メキシコ湾岸から中西部への送油が月間200万バレルを超える月もあった。しかし送油量はその後次第に減少。それでも月間の送油量が日量平均86万~100万バレルを超える月(2012年第4四半期)もあった。これらのファンダメンタルズのデータは、原油の増産に伴うその他のファンダメンタルズ データと矛盾していない。米内陸部での増産を受け、メキシコ湾岸から米中西部へ原油を“輸入”する必要性が減退したのは明らかだ。

さらに米中西部からメキシコ湾岸への逆送は、米国の石油増産が始まった2008年以降、確実に増加し、特に2013年には急上昇を見せている。EIAの調べでは、2008年1月の逆送は日量6万3,000バレルだったが、2013年3月および同年7月には日量50万バレルを記録した。パイプラインの送油能力増強は、これから先も、簡単に送油量を増やせる環境が整ったことを意味している。

加えて、EIAは、2013年3月から7月のメキシコ湾岸への原油輸入量が2010年以降、日量180万‐200万バレル減少したと公表した。これは明らかに米国以外の市場にインパクトを与える出来事だ。換言すれば、米国以外の世界に対する石油の供給は-概念的にはメキシコ湾岸から-過去3年間で日量200万バレル増えたことになる。拡大した米国の供給は直接的かつ大いに世界の供給に影響を投げかけているのだ。

基本的な市場の需給情報ついては、米国市場の参加者はきわめて恵まれており、実際のところ、世界の他市場に比べ圧倒的に豊富な情報を得ることができる。例えばこれまでに説明してきたことのほか、有名なところでは、地域ごと(クッシング、オクラホマ、WTIの受渡しおよび値付地)および全米にわたる原油と製品の週間在庫情報がある。こうしたデータは3営業日以内に発信されるため、他のファンダメンタルズのリアルタイム情報と同等の利用が可能だ。さらに市場参加者は、同じく地域および全米の製油所インプットと設備稼働率を週ベースで知ることができる。

この宝のようなデータから導き出されるひとつの結論は、アービトラージ主体の米国石油市場は、需給ファンダメンタルズの影響を抜きには成り立たないということだ。米内陸部とメキシコ湾岸の関係に関して、それぞれの地域における3つの異なるタイプのデータストリームで示したわれわれ自身の参考資料はこのことを如実に表している。(3つのデータストリームを構成するのは生産、価格、輸送に関する情報。さらに4番目のデータとしてメキシコ湾岸での輸入がある)

ここまでを整理すると、WTIを含む米国の石油価格はアービトラージを主体に形成してはいるが、透明性の高いファンダメンタルズを色濃く反映していること、同時に本質的にこちらもまた透明かつ公正なコマーシャル市場(当業者が主体となって価格形成する市場)のメカニズムのもとに成り立っていること、という従来からの証言を立証したことになる。

北海油田のファンダメンタルズ?

まず、北海油田と需給ファンダメンタルズに関する情報について、WTIを含む米国石油市場に存在するような情報があるか見極めることから始めてみよう。ファンダメンタルズに関する情報で最も重要なもののひとつに、商業生産者(コマーシャル・プロデューサー)によって、あらかじめ毎月提供される、それぞれの石油流通システムにおける生産および積出しのスケジュールがある。

これ以外の北海油田の需給ファンダメンタルズの情報は、緻密度とタイムリーな公表の観点から米国のそれとは比較にならない。そうした北海油田のファンダメンタルズ情報をとりまとめる公的機関が存在しないからだ。

国際エネルギー機関(IEA)は世界規模で需給ファンダメンタルズ情報をとりまとめ、膨大な量の有益な分析を提供しているが、そのデータの公表は、修正を経て3カ月以上のタイムラグがある。しかし(長期のタイムラグがある)IEAによる積出し予定と生産に関する概要報告以外には、北海油田に関して公式な機関をソースとする需給ファンダメンタルズ情報は存在せず、しかもその情報は北海油田の主要油田である“BFOE(ブレント、フォーティーズ、オセバーグ、エコーフィスクの4油田。現在、石油市場で一般的に”ブレント“という場合はこの4油種をいう)”についても、常に詳述しているわけではない。

北海油田のファンダメンタルズとして定義すべきものは曖昧である。というのも、BFOE市場に関しては主観的な熟考の不足はなく、その多くが深い洞察に満ちているというが、その熟考のもとになるのは商業活動とその結果に基づく未確認の報告であって客観的な需給情報ではないことが、それを証明している。すべては市場のファンダメンタルズではなく、マーケットコメントをもとにして作られているのだ。

ここから2つの疑問が湧き上がってくる。BFOEの価格変動を測る客観的なファンダメンタルズ情報に根本的な不足があるのならば、どのようしてBFOEがファンダメンタルズ主導で動いていることを確認できるのか? また、もしBFOEの価格形成がファンダメンタルズ主導でないならば、なにが主導的役割を担っているのか?

BFOEの現物フォワード市場と現物市場

BFOE“市場“はさまざまな取引方法あるいは市場メカニズムで何層にも積み重ねられ、泥沼化している。ほとんどの階層は時間とともに積み重ねられていったが、それは減産を続ける北海油田に対応するための努力の結果であった。われわれが注目するのは2つの重要な階層だ。ひとつはBFOE現物フォワード市場―取引単位は1カーゴ―で、同市場は古くからBFOE(と、それよりも先に存在していたブレント)市場の中核部分を占めている。もうひとつは現物カーゴ市場―Dated BFOE(積載日確定後のBFOEスポット取引)―である。

われわれはプラッツ社が公表しているDated価格も注視する。理由は、同価格がほぼすべての実際のDated現物カーゴ取引に用いられており、同時に、国内の石油生産者が石油価格を決定するために用いる多くの計算式に組み込まれているからだ。この2つのメカニズムの関係は直接的だが、間接的でもある。プラッツDated価格は、BFOEフォワード取引には直接的には関係がない。

• BFOE現物フォワードは1カーゴ(60万バレル)単位のフォワード取引で、売り方がデリバリー・マンス(事前に合意した受渡月)内にB、F、OまたはEの積載ターミナルから任意の場所を指定して受渡しを行う。売り方が買い方に対して受渡しを執行する際には事前通知期間―現在は最短25日―が定められている。

• BFOE Datedでも、売り方が買い手に取引に係る積載日を通知する仕組みは同じだ。BFOE Datedが現物カーゴと呼ばれるのは、現物の石油の積み込みと受渡しが法的に義務づけられているためだ。Dated取引の価格はプラッツDated価格とは、一般的に数日の開きがある。

プラッツDated価格のアセスメントは日々公表されている。われわれの理解では、同価格は、プラッツ社がマーケット・オン・クローズ(MOC)を用いた価格決定メカニズムに基づいて算出する2つの価格を根拠としている。パーシャル・ブレント・フォワード取引、そしてパーシャル・ブレントとDatedブレントの差金決済取引(CFD)がそれだ。パーシャル・ブレント・フォワード取引は売り方と買い方間の現金決済取引で、取引単位は10万バレル相当である。現金決済方式はプラッツ社のパーシャル・ブレント・アセスメントをフロート価格として用いるスワップ取引と同じだが、ひとつだけ例外がある。同じカウンターパーティー同士が互いに同じ取引限月で6単位の取引をした場合は、その売り方と買い方は6単位の取引を1カーゴのフォワード取引に振り替えなければならない。プラッツ社によれば、そうした振替は珍しいことではなく、市場参加者は当然、規則を遵守するということだ。

これが日常的に起きるとは言わないが、実際に起きているのは確かだ。2番目の価格形成メカニズム(パーシャル・ブレントとDatedブレントのCFD取引)は現金決済のみが認められている。それぞれの”市場“の”価格“を合算すると―すなわちパーシャル・ブレントと、パーシャル・ブレントとDatedブレントの差の合計―プラッツDatedブレントになる。同じように、現物BFOE取引で最も広く参照されているプラッツDatedブレントも現金決済の2つの取引を根拠としている。一方は日常的に取引があり、もう一方は多くの場合に取引され、もちろん例外もある。

パーシャル・ブレントとCFD MOC価格形成のプロセスは、現物BFOE市場のプライシングには欠かすことができない重要なメカニズムである。うち一方の価格形成のプロセスでは必然的に受渡義務の可能性が生じるが、実際に受渡しに至るケースはまれだ。他方には、そもそも受渡しの義務はない。さらに価格形成プロセスは、本質的には市場メカニズムではなく、取引の成約とビッドとオファーをサポートするものである。しかしそうしたメカニズムは、特に、ある時間の中で限られた瞬間の価値を決定することを意図して構築されているのだ。取引の成約、ビッド、オファーは目的達成に向けたツールにほかならない。

比較すると、市場はそれぞれのビッド、オファー、取引の成約によって特徴づけられ、その市場のアウトプットのひとつが、そこで形成された価値ということになる。

そうであれば、こうした価格形成プロセスは―市場参加者が現物受渡の代替策を比較検討し、価格の決定にアービトラージを用いる―米国の石油市場と類似した方式に委ねられているのだろうか? 一連のプロセスでアービトラージに役割が与えられているのか否かは明らかではない。むろん、なんらかの不適切を示唆しているわけではない。しかし、仮にアービトラージに何の役割も課されていないとすれば、市場のファンダメンタルズには役回りがあるのだろうか? 現物市場の需給に関する規律に関しては、これらのメカニズムを通して管理を仕向けるものは本当になにもない。

ビッドとオファーは市場のファンダメンタルズに対する意見と期待を反映できるが、すでに織り込まれている可能性もある。しかしビッドとオファーがそうした機能を果たさなければ現物市場の有用性は生じない。われわれの考えでは、通常、MOCのアセスメントに対してどの取引が現金決済であるかは、市場ファンダメンタルズに特段の事情を考慮せず、一連のプロセスの中で、内部事情だけで決定する。

それは、現物受渡し機能を伴う市場メカニズム、あるいは現物市場の取引価値に基づく現金決済システムを有する市場メカニズムのいずれとも異なるもので、現物のファンダメンタルズからは明らかに独立した純粋な価格形成メカニズムなのだ。

その独立の範囲の中で、当該の価格形成メカニズムは、入念に作り上げられた価格交渉プラットフォームと本質的には同様の機能を果たすこととなる。すなわち、売り方と買い方が売買価格を決定するための洗練された手段を構築し、最終的にはそこで形成される一連の価格が現物石油市場で指標価格として用いられるのだ。

BFOE現物フォワード・カーゴ取引は、最終的にはプラッツDated BFOEを飲み込んでしまうのか? この質問への回答は難しい。その理由のひとつが、現物BFOE市場の非透明性にある。取引内容はほぼ公表されず、それゆえ、そこで行われたであろう価格形成を知る窓口は存在しない。それとは対照的に、プラッツ社は高い透明性を持って価格形成を行っている。

BFOEフォワード市場の透明性不足の中にあって、それでも起こりえるアービトラージは、フォワード・カーゴとDatedカーゴ間の取引だ。だがフォワード市場とDated市場間である程度のコンバージェンス(訳註:離れていた価格同士が接近すること)を予見したとしても、フォワード市場における透明性の欠如が取引支援材料の可視化を困難にしている。同時にプラッツDatedとBFOEフォワード間では、そうしたコンバージェンスの発生は必要としない。その結果として、プラッツMOC価格の形成メカニズムとBFOEカーゴ市場の間ではアービトラージのメカニズムは存在しないことになる。こうしたことから、どのような規則に基づいてプラッツDatedが、一定の方式に則って算出される価格をBFOEフォワード市場からの価格波動に換算しているのかを想像するのは難しい。

可能性を排除する過程から考えられるのは、プラッツDatedの価格形成プロセスがBFOEフォワード・カーゴ市場を先行しているかも知れないということだ。ただ先行しているか否かに関わらず、遅行しているようには見えない。価格交渉という動機のほかには、価格変動を予測させる需給ファンダメンタルズ情報を含め、これらのプロセスを司る明確なルールが存在するようには思えない。

手詰まり

われわれは依然として北海油田の適切なファンダメンタルズを明らかにし、そのファンダメンタルズが実際にきちんと体系化され、算出されたものかを知る必要がある。さらに北海油田市場の主要な価格変動要因が何なのか、ファンダメンタルズがその中核にあるのか、それとも別の要素なのかについても確定しなければならない。

米国のベンチマーク市場は現物市場からのアービトラージも含めて、需給ファンダメンタルズを反映しており、それは信頼に足るデータで構成された膨大な資料からも裏づけられていると言える。

北海油田のベンチマーク市場に関しては、アービトラージの役割や市場ファンダメンタルズがどのように反映されているか、あるいは、そもそも反映しているのかも定かではなく、その実績を裏づける信頼に足るデータの欠如も指摘される。

本稿はオックスフォード・エネルギー・フォーラムが初出である。



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