米国は中国と経済的パートナーシップを 組むべきなのか?

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Blu Putnam 2015年12月22日

概要
• 中国経済は確実に米国と同格の水準に達する、と経済学者のN.ルービニは予想する
• トレード・パートナーシップ関係で、米国への中国リスク縮小が期待できる


中国経済は失速感を強めており、金融や商品市場の取引参加者は、この世界第2位の経済がリセッション(景気後退期)入りする可能性に、懸念を強めている。11月にCMEグループが主催したGFLC(グローバル・ファイナンシャル・リーダーシップ・コンフェランス)で、経済学者のヌリエル・ルービニは、中国経済の成長力後退に伴う不安定な状況を予想したものの、それがハードランディングとはならないとの見通しを示した。GFLCの参加者が大勢としてこの意見に賛同した一方で、その他のチャイナ・ウォッチャーに対してルービニを際立たせたのは、米中の外交関係を、世界の金融市場の潜在的リスクとして指摘した点だった。

ルービニの論点は、米国が中国に対するスタンスを、これまでの「封じ込め」から、より協力的な「経済的パートナー」に転換することで、中国経済の失速を背景とする世界経済のリスクは軽減することが可能になる、と言うことだった。この論点の根拠には、今後10年で、例え国民一人当たりの消費で大きな格差が残るとしても、中国経済は確実に米国と同格の水準に達するとする彼の予想がある。さらに、米国の石油生産が拡大する一方で、中国は中東原油の主要な消費国として台頭してきている。また、アジア太平洋において、中国は既に支配的な経済力を有しているという事実もある。

こうした背景の一方で、IMF(国際通貨基金)や世界銀行などの国際機関において相応の影響力が担保されていない状況に、中国政府の不満感が高まっている、とルービニは指摘する。また、こうした機関でその経済規模に応じた責任を中国が負うことについて、米国はこれまで非協力的だったのも事実である。その意味では、世界的な貿易交渉でも、中国は大体において無視され続けてきた、とも言える。こうして、不満感を高めた中国は、他の新興国と代替的な資金調達機関を設立するに至り、米国はアジア太平洋地域での影響力後退を招く結果に至っている。

要約すれば、経済的なリスクと政治的なリスクは相伴っている、というのがルービニの論点となっている。彼は、米国の「封じ込め」政策は最終的に、中国経済の規模や世界経済の中で中国が果たすべき役割などについて、現実を受け入れることになると考えている。それならば、米国が対中戦略を交易パートナーシップの様なアプローチに自ら転換することで、中国リスクの軽減と世界的な経済成長を目指すことが可能になる、と言うことである。

先ごろ、IMFは国際準備資産SDR(特別引出権)の通貨バスケットに人民元の採用を決定した。中国通貨の採用自体は象徴的な出来事に過ぎないかも知れないが、米国が非協力的であり続けるかは別にしても、中国が世界的パワーへの歩みを進めている証左の1つではある。もちろん今回、SDRの通貨バスケット内で人民元に11% の加重比率を提供するため、その余地のほとんどを提供したのはユーロであり、米ドルの譲歩は非常に限定的だった。確かに、政治的リスクによって金融市場のリスクが喚起されるというルービニの視点は、興味深い洞察である。実際、1700年代には、市場動向に関する分析は政治経済学の分野と認識されていた背景もある。



FRBが12月に利上げに踏み切った場合、次の動きは?

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Blu Putnam 2015年12月11日

要約
• 利上げの確率は約75%
• 米国経済、ドルへの影響は最小限にとどまる


米連邦準備理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長が発するメッセージは、今では透明性が高くなっている。米中央銀行によるほぼ10年ぶりの短期金利の引き上げに刻々と近づいているように見受けられ、同議長は、近頃多くの講演の場において、FRBがたどる可能性の高い経路をかなり明確に示している。

フェデラルファンド(FF)金利は、米国が経済的混乱に陥った2008年の大不況以降、ほぼゼロ近辺にとどまっており、その混乱を発端に、FRBは世界最大の経済大国の復活を目指し量的緩和と呼ばれる複数の資産購入プログラムを開始した。

我々は大勢のアナリストと同じく、2015年12月15・16日に予定される連邦公開市場委員会(FOMC)の会合の場において、FRBが利上げに踏み切ると予想している。FF金利先物価格に基づくと、FRBが今回の会合で利上げする確率は概ね75%と見込まれており、11月の約70%から上昇し、中国の株式相場と景気減速への懸念を理由に2015年9月の利上げを見送った後から一気に上昇した。米国の底堅い雇用統計を踏まえ、FRBは、極めて変動の大きい中国の株式市場に左右されるのではなく、金融政策を推進するために米国の経済指標へ関心を戻している。

今のところ12月のFRBによる利上げ決定は既定路線であることから、次の考慮すべき重要ポイントは、2016年のFRBによる次の利上げの動きになろう。この点に関して、イエレン議長は、FRBはインフレ統計をガイダンス(指針)に使用することを示唆している。

ところで、インフレ率の予測に関して言えば、FRBは、消費者物価指数(CPI)の総合指数ではなく、個人消費支出(PCE)価格指数の上昇率の使用を選好している。CPIの総合指数は現在0.2%、コア指数(食品、エネルギーを除く)は1.3%であることから、PCE価格指数に基づくと、FRBは複数回の利上げを行うだろうか。

今後、エネルギー価格は前年比で大幅な下落を示さないと思われることから、2016年上半期の米インフレ指標は徐々に上昇するというのが、我々の見方である。それでも、インフレ率については、1.5%から2%の範囲内で推移するという見通しに過ぎない。この低水準のインフレ見通しを考慮してみると、FF金利は2016%末までに1%近辺にとどまる可能性がある。FRBは大不況に起因するゼロ金利政策を解除する可能性があるが、急激なペースで、または同じペースで段階的に利上げをしないとみられる。

利上げが米国経済にもたらす影響は、ほとんどなきに等しいと思われれる。0%と1%の差は、どちらにしても企業の投資計画や個人消費に目だった変化をもたらすには不十分である。さらに、政策のステップがまったく極めて弱いことから、米ドルへの影響でさえも、直観に反した結果になるかもしれず、そのためユーロは少し上昇するかもしれないのだ。

注視する必要のある他の市場の変化の一つは、一般的に月の中旬に発表される月次のインフレデータへの注視が更に強まるかどうかである。ただ、今のところ、毎月最初の金曜日に発表される雇用統計は、依然として市場動向を左右する最重要指標である。

最後に、インフレ率のペースもまた、米10年国債利回りと他の長期国債の展開に影響をもたらすとみられる。FRBがゼロ金利を解除したとしても、インフレ率が低水準にとどまるということは、利回り曲線のフラット化(国債利回りは少し動くかほとんど動かない)を示唆する。


中国は先物市場の成功モデルを参考にすべきである

China Should Follow The Futures Markets Blueprint

Leo Melamed 2015年12月10日

一部抜粋
• 中国は多くの一次産品を輸入する世界最大の輸入国である。そのため、中国の先物市場は国際的な価格発見において、より大きな役割を担うべきである。
• 市場の国際化には、適切な改革とテクノロジーが必要になる。


過去100年間のコンピューター技術の進歩によって、人類の関心は極大から極小へと移った。この事実は、デリバティブの発展とも大いに関係がある。

20世紀の初めには、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論により、自然科学において宇宙の研究が進んだ。これは極大に関する研究だ。その後、量子物理学の発展とともに、極小に関する研究が進んだ。このプロセスによって、パソコンの生産に欠かせないトランジスタや、私たちが日々の生活で目にする様々なテクノロジーが文明に出現した。

同じように、生物科学の分野では、研究の主な対象が人の細胞からDNAへと移った。つまり、ここでもマクロからミクロへの変化が起きている。これにより、人類は遺伝子疾患や免疫システムなどを理解し、多くの病気の治療法や薬の発見へとつながった。

そして、同様の変化が金融工学の分野でも起きた。コンピューター技術が様々な投資戦略に適用され、大から小へと金融がシフトしたことは、他の分野で起こった変化と驚くほど似ている。コンピューターサイエンスの手にかかれば、どんなに複雑なリスク管理の構造であっても、小さな構成要素に分解することができる。こうして、デリバティブが誕生した。デリバティブは、金融分野における素粒子物理学、または分子生物学のようなものだ。

テクノロジーによって、金融工学におけるリスクの基本的な構成要素が解明された。金融工学の技術者は、リスクとリワードのパッケージを分解し、再構築、再分配することで、よりニーズに沿ったリスク・リワードを投資家に提供できるようになった。

こうした利点により、金融先物商品が大きな成功を収めたのは当然の結果といえよう。1972年に国際通貨市場(IMM)が開設されて以来、リスク管理に用いる金融商品の進化は劇的なものであった。簡潔に言えば、リスクを避けたいと思う人から、リスクを引き受けても良いと思う人へと、先物市場が効率的に金融リスクを配置することができた。

シカゴの成功モデル

当初は、先物市場を否定的に捉える人たちもいた。単なる賭博場に過ぎないというのが批判の根拠である。しかし、膨大な量の学術研究と政府機関の分析によって、常に批判とは正反対の評価が下されてきた。それは、先物がビジネス上の複雑なリスク管理のために不可欠で、資本市場の発展に欠かせないという評価である。過去40年間に渡って、金融の先物は世界中に浸透していった。多くの国がその仕組みを採用し、シカゴの成功モデルを取り入れた。今日では、米国に加えて、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、日本、韓国、メキシコ、シンガポール、英国、そして中国に、先進的な金融先物市場が存在する。そして、そのほとんどで株価指数の先物が取引されている。

この事実は、中国が先進的な資本市場の競争を勝ち抜き、真の大国へと発展する上で非常に重要である。1997年にノーベル経済学賞を受賞し、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)で金融学の教授を務めるロバート・C・マートン氏は次のように述べている。

「昨今のデリバティブ取引の急増は、取引コストの大幅な削減に貢献している。ある組織が金融上の戦略を実現するためにデリバティブを用いると、原資産の現物市場で証券を取引する場合に比べて、コストを10分の一から20分の一に削減できる。このようなコスト削減を考慮すると、それが存在しない社会にはもう戻ることができない。デリバティブはすでに、世界の主要な金融システムの一部として定着している」

デリバティブ商品は、世界で最も規模が大きく、最も洗練された金融機関によって取引されている。国内外の国際銀行をはじめ、政府系や民間系の年金ファンド、投資会社、投資信託会社、ヘッジファンド、エネルギー供給会社、アセット・ライアビリティ・マネージャー、住宅ローン会社、そして保険会社がその一例だ。デリバティブを利用する会社の約83%が、外国為替の変動リスクを抑えることを目的としている。他には、金利の変動に対するヘッジを行うために取引する会社が76%、商品価格の変動リスクを抑えるために取引する会社が56%、株式市場の先物を取引する会社が34%となっている。中国では、証券監督管理委員会(CSRC)の設立を通じて、上海先物取引所(SHFE)、大連商品交易所(DCE)および鄭州商品交易所(ZCE)から成る先物市場が21世紀初頭までに整備された。各取引所では、管理委の規制に沿って改革が行われ、それぞれ異なる商品が取引されるようになった。しかし、中国が金融市場に進出したのは、2006年になってからだった。その年、中国金融先物取引所(CFFEX)が誕生し、上海市場の主要な株価指数であるCSI 300指数が取引されるようになった。CFFEX は初日から多くの取引高を記録し、たちまち成功を収めた。

世界の投資家へ門戸を開く

中国の4つの先物取引所は盛況であるが、どれも同じ問題を抱えている。これらは主に国内向けであり、海外からの参加がほとんど無いのだ。私はかねてよりこの問題を指摘しており、海外の投資家に対してもっとオープンになることが中国の喫緊の課題であると述べてきた。先物市場が国境を越えて発展しないかぎり、中国経済が享受できる先物のメリットは制限されるであろうと私は警告してきた。この指摘は現在でも当てはまる。中国が世界に向けて市場を開放すれば、国内市場が強化されるとともに、原資産の現物市場の流動性も高まり、一次産品の価格発見プロセスも改善されるだろう。これらはすべて、中国の実体経済にメリットをもたらす。私は公私を問わず、このことを機会があるたびに述べてきた。

CFFEXにはもう一つの悪名高い問題があり、取引所の経営陣や中国証監会もこの問題を認識している。この取引所では、出来高の80%以上をリテール部門が占めており、そのほとんどが投機である。この比率は、建設的な実需と投機のバランスではない。2015年の7月から9月にかけて発生したボラティリティの急騰は、中国を含む世界中の市場を揺るがし、必然的にCFFEXにも注目が集まった。CFFEXのトレーダーは、市場の暴落を引き起こした主犯者と見なされた。私はその考えに同意しかねる。

火を消し止めること

先物市場は、いつも最初に警告を発する場所である。これは特性とも言える。先物市場は、ニュースの良し悪しに関わらず、それを即座に反映することを使命としている。市場の透明性と利便性、アクセシビリティ、そして効率性によって、常にニュースに対して最初の反応を示すのが先物市場だ。

現物市場の反応は、それよりもずっと遅い。そのため、いつも決まって先物が問題を起こしたように見えてしまう。例えるなら、煙が立つ兆候を見つけて即座に行動を起こす優秀な消防士。または、患者の病気を最初に発見する腕の良い医者。それが先物市場である。彼らは、時として悪いニュースを最初に伝えたことで咎めを受ける。「悪い知らせを伝えた使者は、首をはねられる」というのが古代からの習わしだ。

しかし、彼らを閉め出したり、政府の介入によって活動を妨害したとしても、火事を消すことはできず、病気の患者も救われない。それはまるで、表示された温度が気に食わないからといって、体温計を投げ捨てるようなものだ。それでは問題を解決できない。

中国は、人民元を準備通貨にするという念願の目標を達成するために、流動性にあふれた力強い資本市場を必要としているが、そのためには先物のメカニズムが不可欠である。

市場の暴落後に、中国人民銀行の元副頭取のウー・シャオリン氏、および中国国務院発展研究センターの元補佐官であるリー・ジアン氏の指導の下で、名門の清華大学が"WeChat"上で同様の声明を発表した。その声明が強調したのは、株価指数の取引は市場の混乱の原因ではなく、より強固な市場を作るための推進役であるという点だ。

清華大学の研究は、私が以前に述べたことと同じ提案をしている。

1. 中国の商業分野に向けた教育を強化すること
2. 法的な奨励によって、中国の商業機関、証券会社、ファンドならびに信託管理会社が、株価指数先物のヘッジの恩恵を受けられるようにすること
3. 海外の機関投資家は、適格国外機関投資家(QFII)の認可を受ければCFFEXで取引できるが、この規則には制限があり、海外の投資家に対する十分な市場開放にはなっていない
4. 投機の取引には合理的な建玉制限を設けること
5. 過度なレバレッジに対しては適切な制限を置くこと
6. 国境を越えた取引を促進するために、あらゆる方策を実施すること

上がったものは…

中国では、次のようなことが起きていた。相場が暴落するまでの間、株式は中国人投資家にとっては外れのない賭けのように思われた。年率2%に満たない低金利の銀行口座に比べて、株式市場では遥かに高いリターンを生み出すことができた。中国のあらゆる街では、経験が浅く、資金をそれほど持っていない投資家が数千ものブローカーの店舗に押し寄せ、電光ボードに表示された価格を横目で見ながら、手当たり次第に株を買っていった。こうして、個人投資家が莫大な資金を株に投じ、株式市場を膨張させていった。

2015年の夏は、株価が右肩上がりに上昇した。バブルはどんどん膨んだ。PER(株価収益率)の世界的な平均は18.5倍だが、中国の株式市場ではPERが70倍に達する銘柄もあった。いくつかの企業の株式は、香港市場の株価に比べて、中国本土で取引される同じ銘柄(A株)の株価が2倍近くに上昇していた。上海証券取引所の株価は、わずか1年足らずで135%の上昇となり、深セン証券取引所にいたっては150%もの上昇を記録した。

当然のことであるが、どのような市場であっても、これほどの短期間で急激な上昇をした後には避けられない運命が待っている。それは劇的な下落、つまり暴落だ。バブルは大勢の投資家が引き起こしたもので、CFFEXに非があるわけではない。CSI 300指数は単なる金融のツールに過ぎず、暴落の理由にはなり得ない。

私はこの点について確信を持っており、著名な大学の研究者や国際金融の専門家の多くが、この意見に全面的に賛同している。前述の清華大学も同様であり、株価指数の取引によって株式市場の混乱が生じることはないという結論を明確に述べている。また、いくつかの法規制によって、投資家がA株の代替となる国外市場に目を向けるようになった点についても、同大学は指摘している。

1987 年の再来

1987年に、私は米国の株式市場で同じような経験をした。S&P 500先物は、1987年10月19日の一日だけで22%の暴落となった。その時の経験と、中国での出来事は驚くほど似ている。そのため、米国で起こった暴落を私たちがどのように乗り越え、将来に向けて何を実施したか、または実施しなかったかについては、分析する価値があるだろう。それが未来への指針となる。私たちは米国で何を学んだのか? 1987年の暴落から学べる最大の教訓は、市場の熱狂によって理性が吹き飛び、常識では考えられない水準まで株価が上昇した後には、市場の残酷な罰が避けられないということである。1987年10月19日は、私の人生において最も恐ろしい日であった。その日、私は多くの人物と会話を交わした。米連邦準備制度理事会(FRB) のアラン・グリーンスパン議長、レーガン政権の大統領経済諮問委員会(CEA)で委員長を務めていたベリル・スプリンケル氏、ニューヨーク証券取引所(NYSE)のジョン・フェラン理事長、多くの有力な上院・下院議員、そして他の取引所の役員たちとも会話を交わした。レーガン大統領を含め、私たち全員が一つのことに同意した。それは、やむを得ない場合に実施する数分間の小休止を例外として、市場を閉鎖してはいけないということだ。市場を閉鎖することは、私たちが知らなければならない情報を伝える最も大切なツールを失うことであると、私たちの全員が理解していた。それはまさに、患者が病気であるかどうかを知らせる体温計を投げ捨てるようなものだ。当時の決定は、先物市場の価値を守る上で最も重要な決断であったということが、最終的に証明された。

一方、現在の中国では、ある特定の原因によって暴落が引き起こされたという考えが沸き起こっている。基礎的な経済要因や心理的な要因が原因であることを示す多くの証拠があるにも関わらず、熱心な犯人探しが行われている。政府関係者や市場観測者の中には、特定の悪人が1987年の暴落を引き起こしたと主張する人たちもいる。米国の株価指数先物こそが、その犯人であるという主張だ。こうした意見に対しては、当時FRBの議長を務めていたアラン・グリーンスパン氏のコメントを引用したい。「株価は最終的に、にわかには考えられないような企業収益の増加と、価格の下落が決して起こらないという期待に基づく水準へと達した。崩壊はいつ起きても不思議ではなかった。もし10月に起きなかったなら、その直後に起きていただろう。暴落は、起こるべくして起こったのだ」

先物を制限すべきかという議論は、私たちにも聞き覚えがある。暴落が発生した当時、主な対策として検討されていたのが、先物の証拠金を従来の5%から50%程度にまで引き上げるという案だった。幸いにも、米国ではこの案が退けられた。その理由は、本来、証拠金はFCM(先物取引業者)の財政基盤を守るために存在しており、顧客やトレーダーの取引を促進したり、逆に抑制したりするためのものではないからだ。ノーベル経済学賞の受賞者であるマートン・ミラー氏は、「証拠金の議論は、遠回しのやり方で米国の先物市場を消滅させるためのものだ」と述べている。

最終的には、10%の証拠金が妥協案として採用された。それ以上の証拠金の引き上げは、先物の流動性を損なう恐れがあるとして却下された。流動性の喪失は、リスク管理のツールとしての先物の利便性を制限し、先物が米国の資本市場に提供してきた強みを失わせる可能性があった。さらに、過度な証拠金の引き上げによって、株価指数のビジネスが国外の競争相手に奪われる恐れもあった。これは、治療薬によって患者が死んでしまうケースに等しい。

新たなテクノロジーが生む可能性

もう一つの批判は、コンピューターのアルゴリズム取引が暴落を引き起こしたというものだ。これは誤りであることが証明された。アルゴリズム取引は、市場で特定の取引戦略をコンピューターに実行させることができる。効率性に優れ、コスト面でも利点のあるアルゴリズム取引は、主に機関投資家が利用している。一定の規制を設けることはできるが、テクノロジーの進歩は今後もとどまることはなく、人間の労働がコンピューターに置き換えられるケースもどんどん増えるだろう。テクノロジーの発展を止めることは、地球の公転を止めることより難しいかもしれない。現在、私たちは年中無休で、24時間インターネットに繋がっている。テキスト送信、ツイッター、Eメール、グーグル、ヤフー、フェイスブック、iPad、iPhone、YouTube、WeChat、そしてアリババを利用している。これらが無い世界に戻ることは、もはや不可能だろう

市場の暴落に関する議論は、最終的に、私が強く推奨してきた一つのアイディアに辿り着いた。「サーキットブレーカー」と呼ばれる仕組みである。これは、株価指数の値動きに上下の制限値を設け、その制限値に達した時に、一定の「小休止」を挟むという仕組みだ。サーキットブレーカーは、市場の規則の一部となり、NYSEをはじめとする様々な取引所で採用された。この仕組みは法律で施行され、現在も有効である。1987年の暴落についての77種類に及ぶ論文や研究が、1~2年後に相次いで公開された。その中で、“公式”の見解を述べたものが、1988年1月の『市場メカニズムに関する大統領特別調査委員会』で、俗に言うブラディー・レポートである。このレポートは、暴落の原因が先物ではないと述べる一方で、単一の規制機関と一貫した証拠金の維持が必要であると指摘している。

私が最も感銘を受けたのは、『調査委員会の所見』と呼ばれるレポートだ。これは、1987年10月19日の前後に発生した出来事の調査記録で、4人の第一級の市場専門家によって著されたものだ。(著者は、ともにノーベル経済学賞の受賞者であるマートン・ミラー氏とマイロン・ショールズ氏、アーノルド&ポーター法律事務所のジョン・D・ホーク氏、およびエール大学のバートン・マルキール氏) 彼らは自由闊達な意見を述べ、先物が暴落の原因ではなかったと結論づけた。取引の全体で見ると、実際には売りの圧力が先物によって吸収されていたことを彼らの調査は指摘している。先物はゼロサム・ゲームであり、あらゆる売りの反対側には、必ず買いが存在することを忘れてはならない。

最終的には、サーキットブレーカーと証拠金の調整を除いて、他のいかなる変更や法規制も行われなかった。米国の株式市場は、この決定を賞賛した。それから間もなくして、その後13年間続くことになる強気相場が始まった。最後の結論として、次のことを述べておきたい。卓越した金融のツールであり、資本市場の発展においても欠かせない金融先物は、すべての主要国で受け入れられている。ロバート・マートン教授の言葉をもう一度引用したい。「ある組織が金融上の戦略を実現するためにデリバティブを用いると、原資産の現物市場で証券を取引する場合に比べて、コストを10分の一から20分の一に削減できる。」 これが、先物の存在意義を示す最も力強い根拠ではないだろうか。

最近の株式市場におけるボラティリティの上昇によって、中国は私たちの経験や成功モデルから目を背け、指数市場の健全な成長を妨げるような策を打つだろうか? それとも、習近平国家主席が以前に述べた「市場の動きは市場に決めさせる」という指針に従い、金融先物市場の存続と発展を選ぶだろうか? 私は、中国が習主席の指針に従って進むことを信じている。

この記事は、2015年12月4日に中国の深セン市で開催されたChina International Derivatives Forumにて、Leo Melamed氏が行ったスピーチを元に作成されました。



食糧価格の下落を背景に中国で政策変更は生じているか?

As Food Prices Fall A Change in Policy Coming For China

Nelson Low 2015年12月1日

要約
• 市場メカニズムにより、中国は一部の穀物について市場自由化のスピードアップを推進
• トウモロコシは、改革の目先の焦点となる見通し


中国は、特にコモディティに関して言えば、世界最大の買い手である場合が多く、独自の条件のもとに市場メカニズムの活用を実践している。これは、ことのほか農産物に関して該当し、政府はまた、13億人以上の人口に対して、価格を安定させて効率的に食糧を供給する責任との釣り合いを取る必要がある。

しかし、国内価格の支援制度を活用して国内生産を奨励し、今の中国政府の目玉といえる食糧安全保障政策が直面する課題は、急に大きくなっている。国際農産物価格が数年ぶりの安値を付け、割高な食糧の山が膨大に残されているからだ。

食糧備蓄

政府は現在、その結果として生じてしまったやや意図せぬ市場の歪みなど、この政策の後遺症に対峙している。このため、中国は少なくとも一部の穀物について、市場自由化に向けた動きのスピードアップを推進している。こうした展開は、国際価格に多大な影響をもたらす可能性があり、しかも海外の輸出会社にとって世界最大の食糧市場で新たな好機が生じていることから、かなり注視されている。

過去10年間において、中国は、農家に最低保証価格を提示することにより、国内の穀物の生産拡大で大きな成功を収めてきた。これは、小麦、米、トウモロコシの95%を国内生産するという食糧安全保障上の要望を達成することが目的だった。

だが、国際農産物価格が大幅安となり中国の国内価格を下回ったため、政府は、穀物から綿花や食用油に至るあらゆるもので蓄積した備蓄が大量かつ割高な状態で残されてしまった。2015年3月、各種穀物の備蓄予算は、3分の1ほど増えて247億ドルに達した。一部の報道では、トウモロコシ、小麦、米の備蓄が中国の年間消費量の50%を超えたことを示唆していた。

現行の政策は、備蓄で膨れ上がった倉庫、生産過剰、密輸、土地の劣化につながったため、今では圧力にさらされている。トウモロコシの場合は、上昇した価格が下流の食糧生産に次第に影響をもたらしているため、ことのほか問題をはらんでいる。

BMI Researchがまとめたデータによると、政府が支払うトウモロコシの保証価格は、1トン当たり平均2,250元と上昇している一方、現在の輸入価格は、税引後で1トン当たりちょうど1,600元である。さらに、トウモロコシは、家畜飼料に用いられるため、畜産業者は、家畜に餌を与えるために割高な国産資料を買う以外の選択肢がなく、そのため、食肉価格は押し上げられて、中国の消費者は、自分の食糧品により多くのお金を支払う羽目になっている。

これらの大幅な価格のゆがみにより、トウモロコシは、目先の農業改革の焦点となる見通しである。その領域において、トウモロコシ生産および価格政策の一部自由化を進めて、より市場主導の体制に向かって進むべきである。

では、どんなことが起こる可能性が高いか。米当局がコモディティの直接買い取りから市場価格と保証価格との差額の補填金支払に移行した20年前に、米国が自国の穀物市場で経験したのと同様の移行を経験する可能性があろう。政府が直接買い付けを廃止すれば、市場主導のメカニズムに向けてさらに一歩近づく。

世界のサプライチェーンに参入

アナリストは、政策変更は、秋のトウモロコシの収穫がほとんど完了している今行われる可能性が高いと考えており、その結果として直接買い付けよりも補助金の交付を選好して、価格設定を輸入価格に近付けることになるだろう。直接介入が少なくなり、生産者が現在、政府に直接売るよりも公開市場で販売していることから、こうした変化は、改革の道筋にとってポジティブな一歩である。また、コモディティが最終的にエンドユーザーにわたる前の「二度手間」がなくなり、管理者にとって非効率でコストのかかる傾向にある貯蔵の必要性を避けられることを意味する。

ただ、最も重要なことは、納税者と国家の負担になるばかりで、目立たぬ倉庫に積み上げられて、時間と作用により使用に適さなくなり放棄されるリスクのあった状況とは対照的に、毎シーズンの生産量が世界のサプライチェーンに入ってきて、実際のユーザーにより保管、出荷、使用されているということだ。

備蓄と輸入割当

遠く離れた所から、この備蓄積み上げ政策は、国内に影響を与えたばかりか、世界にも影響をもたらしている。綿花と牛乳はおそらく、それを示すのに最適な2つの事例だ。中国が2013年に備蓄用の綿花買い付けを終了したその時点で、備蓄は既に世界の在庫の約60%程度積み上がっていたため、世界各国の市場では中国が備蓄の積み上げを続ける意向はないと認識され、その後価格は急落した。

牛乳も似たような話である。多くの国は、中国の需要を満たそうと生産を大幅に拡大してきたが、中国が備蓄の積み上げを停止して国内生産を増やした結果、乳製品が供給過剰となり価格の急落が起きた。ニュージーランドから英国まで、酪農家は副次的な影響を受け、その一方で価格安を背景に、中国の農家が牛乳を流して捨てているとさえも報道されていた。複雑きわまる意味で、これらの2つの事例では、政府の介入は皮肉にも予想されうる最悪の金銭的結果を招き、備蓄は価格が高いときに積み上げられており、正反対になるべきだったのだ。とはいえ、中国に関して言えば、金銭的結果がプラスになることは、必ずしも最も重要な結末ではない。

中国政府が採用している別の政策手段は、国家発展改革委員会(NDRC)によって管理されている輸入割当の活用である。中国政府による世界貿易機関(WTO)への誓約に基づくと、年間輸入割当は小麦が960万トン、トウモロコシが720万トン、米が530万トン、綿花が89万4,000トンである。つまり、中国政府は、最近の交渉で輸入割当を引き上げてより高い上限を認めるよう圧力をかけられており、米国小麦連合会および全米小麦生産者協会の調査によると、中国は現時点で、小麦の国内生産の価値全体の約47%を下支えしており、WTOのもとに同意した8.5%をはるかに凌いでいる。

中国は、輸入割当を課している最初の国でも最後の国でもなく、自国市場の保護目的で輸入割当を課している国は先進国でも多い。輸入割当の活用は、壁を築いて海外市場から国内市場を守るのに役立ち、したがって、自国市場ではなく、オフショアの需給要因が対象である。これは、国内生産、価格、消費の管理を目的とした綿密なツールに見えるかもしれないが、大きな欠点があり、その最たるものが、競争圧力が弱まり生産性向上の意欲がそがれるという点である。これはスパイラル効果を通じて、不十分な生産、価格上昇、更なる輸入保護につながり、最終的に生産性が後退して一段と非効率性が高まることになる。

食糧安全保障政策= 社会政策

これらの政策手段はすべて、生産の自給自足の達成という崇高な目標を掲げて採用される。とはいえ、そのそれぞれは自らが撒いた一連の問題を伴う。中国のことをよく知らない海外のアナリストは、政策が古めかしいと言ってこれを一笑して、おそらく不要だと指摘するかもしれない。自由市場の支配に任せればいい、そう言う。

ただ、中国にとって、政策手段の組み合わせは、食糧安全保障政策も社会政策の要素に組み込まれているという現実を考慮する必要があり、地方農家にとっての適正な所得水準と雇用を保証するという要望が存在する。農業勘定は、GDP全体の約11%、雇用全体の40%を占めており、つまり農業は、中国経済にとって引き続き重要な寄与要因である。

中国は、農業セクターに対する構造改革の推進をあくまでも守ると思われる。ただし、改革は、性質上漸進的になるとみられ、それぞれの段階で以前のものを足場にして、進歩的で効率的で弾性のある枠組みを作るという最終的な狙いに向かっていくと思われる。中国は、構造改革がたどる道筋でしり込みせずに、投薬を拒まないことを望むしかない。ある意味で、改革は、伝統的な中国の医療とかなり良く似ており、その治療には長い期間がかかり、苦薬を飲むことになるが、結局、患者はすっかり完治したのがわかることになる。



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